心の中を開く鍵
「何をしてんすか、先輩。部外者をこんなところに連れてきて」

「部外者でもねぇだろう。おまえのそんな面見れるんなら」

急に態度が砕けた様子の部長さんが、ニヤニヤして私の背中を押す。

いや。確かに私は部外者だから、押されても進んで行けませんが。

どうしようか迷って翔梧を見ると、おいでおいでされたから、部長さんを見つつも近づいて行く。

「……会った人物が災難だったな」

翔梧の言葉に頷きかけてやめた。さすがに営業部長さんがいる前で頷けないでしょ。

でも、災難……だよね?

「高崎。お前カッコつけてばっかりだと、嫌われるぞー?」

部長さんがチャチャを入れて来て、途端に翔梧が複雑な顔をした。

「え……いや。まぁ……」

視線を逸らして頭をかく翔梧に、部長さんが目を丸くする。

「なんだ? そういう事じゃないのか?」

キョトンとする部長さんに、翔梧は大きな溜め息をついた。

「砂川さんの察しの悪さは、折り紙つきですよねぇ。真由と俺は、大学時代一緒だったと申し上げたでしょうに」

部長さんは腕を組み、何かを考えるように顔をしかめる。

しかめた顔のまま、私を眺めた。

「あー……もしかして、消えた元カノか?」

何だか題名みたいな呼ばれ方してるー! しかも、全然カッコよくないー!

ちらっと翔梧を睨むと、そっと視線を外される。

まぁ、いいんだけどさ。

頭を押さえながらウェットティッシュを差し出した。

「……なに?」

「袖口。染みになっちゃうから」

無表情に袖口を示すと、微かにコーヒーの染み。それを見て、翔梧が納得した。

「……サンキュー」

一枚抜き取り、シャツの袖を拭いている翔梧を眺め、胸の前で腕を組む。
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