心の中を開く鍵
「お仕事終わりそう?」

「まぁ、終わるけど」

「時間かかるなら、近くのカフェで時間潰すけど」

翔梧は私を見下ろして、それから微かに口角を上げた。

「なんだろう。喧嘩売られているように感じるんだが」

「喧嘩売りに来たワケじゃないわよ」

そうよ。喧嘩するつもりはないわ。結果そうなったとしても。

「じゃあ。何しに来たんだよ」

「ケリをつけに」

お互いに睨みあったら、部長さんに大爆笑された。

「高崎が劣勢だな? まぁ。会社で騒ぐなよ。まだ開発の奴らは帰ってないから」

そう言ってヒラヒラと手を上げると、部長さんは帰っていった。

そして落ちる沈黙。

「あなた、部長さんに何を話したの」

じろりと睨むと肩を落とされる。

「色々と。先輩に突っ込まれたって教えただろう」

むすっとして書類をファイルに挟んでいる翔梧に目を見開いた。

「あなたが相談した相手って、部長さんなのっ!?」

「当時は主任だった。思えば37歳で部長ってエリートだよなぁ」

いや。28歳で課長もエリートだと思うけど。

そうじゃなくて、部長さんて37歳?

もっとおじさんだと思ってたわー。

「高野商材の出世株なのねー」

「言っとくけど、砂川さんは奥さんも子供もいるからな」

……どういう忠告よ。顔をしかめたら、翔梧がファイルを整えながら肩をすくめた。

「今日はお前のとこの顧問にからかわれるわ、先輩にバレるわ、散々だ」

「私だって唐沢さんと主任に事情聴取受けたわよ」

ムスッとして言うと、翔梧は諦めたような顔をした。

「……とりあえず出よう」

カバンにファイルを入れて、翔梧は入口のドアを示すから、大人しくそっちに向かう。

「飯食う?」

「……素面の方がいいんじゃないかしら?」

電気を消してから部署を出て、鍵を閉めると無言で見下ろされた。

「徹底抗戦の構えだな」

「だから、喧嘩売りに来たわじゃないんだってば」
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