心の中を開く鍵
「大学生でそれは異質だったみたいよ? 皆と同じものにキャーキャー言わないのが不思議がられたもの」

でも、私には解らなかったのよ、その心理。

皆が好きなイケメン俳優とかアイドル、マスコットやキャラクターやら。
皆が好きだから、自分も合わせて好きにならなきゃいけない……という空気感。

誰に何を言われようと、好きなものは好きだし、好きじゃないものは好きじゃないし。

それのどこがいけないの?

そう思って、気がついた。

「……私は、きっとちゃんとあなたを好きだったのね」

小さく呟くと、翔梧は顔を上げる。

「真面目な顔を見たことはなかったけど、明るく笑う翔梧が好きだったわ」

懐かしく思って微笑むと、翔梧は一瞬だけ視線を外し、それからまた戻ってきて自嘲するように笑う。

「俺は……人のなかにいないと、自分が確立しない人間だったんだよ」

そう言いながら、溜め息をついて片手を上げると、近づいてきた店員さんに注文してからソファに身を預け、腕を組んだ。

「俺が三人兄弟の末っ子だって話、したことないよな?」

唐突に始まった身の上話に瞬きして、記憶を探る。

探ったけれど、覚えている範囲内でそんな話はなかったと思う。

「聞いてない……かな?」

「そうだなー。とりあえず、俺が浅はかな、甘ったれなんだよ」

それは、現在進行形?

驚いて固まったけれど、翔梧は目を細めて淡々と話続ける。

「長男は昔から頭が良い奴だったし、次男はメチャクチャ要領の良い奴だったし、俺ははみ出しっ子って奴だ。まぁ、何をしても親から褒められた事もなくて、家の中では息が詰まる人間で……」

「え、ええ……」

突然過ぎます。ちょっと、翔梧?

「家を離れて、大学入って……つるむ奴が出来ると、楽しくてしょうがなくてさ」

……そう。そうなんだ……と、言うかさ。

ご飯前に、何だかとってもヘヴィな話になりそうなんだけど。

「あ、あのね……?」

「ダチに呼ばれる度に、必要とされてる気がして嬉しくて……お前にも必要とされてたのに気づけなかった」

とても静かな口調と表情に無言になった。

それは“言い訳”なのかな。それとも翔梧の“事実”なのかな。

判断はできないけれど、また視線を外されて、どこか困ったような彼を見る。
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