心の中を開く鍵
「……甘えてたんだよ。お前はいつも待っていてくれたから、ずっと待っていてくれると思っていた」

寂しそうな声音に、俯く。

……何もなくて“ずっと待って”いられる人はいないでしょ。

あの時はふたりの時間なんて、あるようでなかったし、会話なんてほとんどしなかったし。

「……私は、一緒にいたいって、言ったじゃない」

「……そうだな」

そうだよ。会話なんてなくても、一緒にいてくれさえすれば嬉しかった。

約束をドタキャンされても、帰ってくると解っていれば待っていられた。

だけど“彼の知り合い”から聞く翔梧は楽しそうで、そして“一緒にいた女の子”の話は楽しそうで。

……関係ない。そう思おうとしても、やっぱり羨ましかった。

「仕事なら……許せたんだけどね」

ポツリと呟いて、俯きながら苦笑する。

「何を考えてるのか、わざわざ教えてくれる人がいたの……知っていた? 昨日、飲み会で翔梧と一緒で楽しかった、とか、すごく楽しくて面白い人なんだね、なんて?」

顔を上げると、驚いたような表情の翔梧が見えて……何故か笑ってしまう。

「どう思う? 私とは会わないのに“他の誰か”から、“翔梧が楽しそうにしていた”話を聞くのよ? 私とは一緒にいないのに“一緒にいた誰か”から、そんな事を言われるなんて……」

もう、笑っちゃうでしょう?

それでも、私はあなたが好きだった。

馬鹿みたいだと、自分で思いながらも好きだった……。

「だから、ちゃんと話をしようとした時に、食事をしようって言われて嬉しかった。嬉しかったけど……」

……別れようか迷っていたと思う。
でも、ちゃんと話をしようとも思っていた。話さえできれば、まだどうにかなるかもしれないって思っていたのよ。

だけど、あなたは“酔い潰れて寝ていた”んだもんね?

呆れもしたし、またか……とも思ったけど、その時に一番感じたのは、確かに悲しみの感情だった。

だけど、私はその気持ちに蓋をした。

もういいやって、放り投げた。

そして、忘れたふりをして、忘れたつもりになっていた。

だけど……全然、忘れてなんかいなくって。

「……忘れたいんだよね」

呟いたら、翔梧が大きく溜め息を吐いた。
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