心の中を開く鍵
「無かったことにして、新たに始めようって言うのは……虫のいい話か?」

「それは“都合が良すぎる”話だと思う」

表情を消して淡々と言うと、翔梧が困ったように頭をかきむしり、それからテーブルに両手を置いて、睨まれた。

「だけどな……お前、終わったことだって言いながら、全然終わってねぇじゃねぇか」

そうだね。私もここまで根に持っているとは思ってもみなかったけど。

私のせいでもあるけど、あなたのせいでもあるじゃない。

どす黒い感情が湧き出そうになって、気持ちが悪くなる。

慌てて視線を外したら、テーブル越しにいきなり腕を掴まれた。

「感情を隠すな。お前に隠されたら俺は解らないだろう」

真剣な表情を見て、それからやっぱり視線を逸らす。

「解ってなんて言ってないじゃない」

「解って欲しいから、ケリつけにきたんじゃねぇのかよ」

ムッとして言われながら考える。

それは、どうなんだろう。私は何にケリをつけに来たの……かな。

「とりあえず、まわりを巻き込むくらいなら、どうにかしようと思ったのよ。このままだと、うちの相談役顧問に何かされそうだったし」

翔梧は掴んでいた手を離し、それから頷いた。

「つまり、何も考えないで乗り込んで来たわけだな?」

「何も考えないで来たわけじゃないわ。これ以上つきまとわないでと言いに来たの」

そしたら、ご飯食べにいくことになって、話がとんでもない身の上話になっていて。

頭が混乱しそうなんだけど。

「無理だな」

ポツリと呟かれた言葉の意味が解らず、まじまじと翔梧を見ると……目が据わってる?

「何が……」

そう言いかけたら、美味しそうな匂いと一緒に、人の良さそうな店員さんが料理を持ってきた。

「……高崎さん。もっと声は抑えてくださいね」

注意する店員さんに翔梧は、ちらっと視線を向けて追い払ってしまう。

……不機嫌そうね。
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