心の中を開く鍵
「……食えば?」

「あ。うん……いただきます」

それきりお互いに無言で食べながら、なんとも気まずい時間が流れる。

正直言って、なんだか怖い雰囲気なのですが。気のせいでしょうかね。

絶対に気のせいでは、ないよね?

美味しいのかもしれないロコモコは、食べても全く味が解らない状態。

さっさと食べて帰ってしまおう。

そう思って食べ終わった瞬間に、翔梧が口を開いた。

「お前は、コーヒーじゃなくて紅茶だったか?」

「……う、うん」

コーヒーは苦手。
すると翔梧は、今度はカウンターの方を向いて口を開く。

「マスター。食後は一つ紅茶で頼みます」

……ここは、ご丁寧にも食後の飲み物が付くらしい。ハッキリ言って余計なサービスだ。

そしてまた落ちる沈黙。

「お前は、空気読むのも上手いんだな」

淡々と言われて、愛想笑いを浮かべた。

「……なんの、話か」

「……追い込まれた兎みたいに、怯えてる」

冷たい視線で微笑みを浮かべている、そんな器用な芸当をしている男が目の前にいて、くつろげるわけがないでしょうが!

もう、どうすれっていうのよ。
目を細めてから、イラついている翔梧を眺めた。

「私、翔梧に怒られる理由がないと思うんだけど」

「怒ってない。けど、真由は勝手な事ばっかり言ってるから、イラついてはいる」

「自分勝手なのはどっち。それに八つ当たりされる理由もないわよ。私は最初からちゃんと意思表示してるんだから。だいたいさっきの『無理だ』発言もいったいなに」

翔梧は私を見つめ、それからやっぱり目は冷たいまま、口元だけが微笑みの形に変わる。

「つきまとうだろうなー……と、思って」

……えー。何て言うか。

そんな宣言されても困るんだけど!
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