心の中を開く鍵
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「それで、どうなったの? どうなったの?」

昨日はケリをつけに行くと宣言をして帰ったから、進展が気になるらしい。

朝っぱらから、うきうきワクワクして目を輝かせている唐沢さん。

無表情に彼女を振り返り、それから気を取り直してファイルに視線を落とす。

「どうにもなりませんでした」

「えー。残念。肉食君も度胸ないな」

唐沢さんも、間違いなく顧問寄りの人だよねー。

半笑いしながら資料整理を始めた。

私としては、翔梧に度胸がないとは思えないな。

だいたい、明らかに気のない当人を目を前にして『口説くから』とか、『六年前から決めていた』とか、宣言するような男に度胸がなかったら、世の中の男のほとんどが“度胸のない人”になってしまう。

でも、そんな男相手と、どうにかなったりしないって。

……まぁ、“つきまとわないで欲しい”と言う、私のお願いもどうにもならなかったわけだけど。

結果“どうにかしなくては”ならなくなった気がしないでもない。

考えながらつくづく思うことは……。

「日本語って便利だな」

「え? どうかした山根さん」

びっくりした唐沢さんと目が合って、曖昧に微笑む。

「いえ。何でもないです」

ひとり言を呟いちゃっただけでーす。

独り暮らしをしていると、ついつい増えちゃうのよ。テレビに突っ込んだり、読んでいた雑誌や小説に突っ込んだり。

……なんだろ。私は寂しいのかな。

でも、まぁ、本当に日本語って便利過ぎてめまいがしそうかも。

『AはA』、『BはB』の英語とは違って、ちょっとしたニュアンスで何でも曖昧にできる。

尻上がりの『あぁ』は納得だけど、尻下がりの『あぁ』は諦めた感じになるし。

○○な感じも、これまた便利。

……そして、昨日の会話はふたりとも“困る”としか、言っていないんだよねー。

困るからどうすれって言うんだ、私!
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