心の中を開く鍵
「僕が妻に、ストーカーと言われていたのは横に置くとして、ある意味では真っ直ぐに、山根さんを見ているということではないでしょうか?」

うん。いろいろ横に置いちゃいけない気もするけど、そういうことなんだろうなぁ。

翔梧は、間違いなく脇目も振らずにいたんだろうと思う。困ったことに。

だいたい普通の人なら、三年も行方不明な女は想わない。
眉を寄せると、持っていたファイル閉じて主任に詰め寄った。

「そういう人は、どうしたら諦めるでしょうか?」

「……飽きるまで、諦めないと思いますが」

キリッと真面目に返されて、溜め息と一緒に力が抜ける。

「……私はそんなに、固執されるほどの女でもないんですけど」

小さく呟いて、仕事に戻った。

「唐沢さん、高野商材から添付された資料のナンバリングと、プリントの枚数が足りないようなんですが。58枚で合っていますか?」

唐沢さんが驚いて、パソコンの画面で確認する。

「62枚よ。4枚どこいっちゃったかしら」

「プリンター見てきますね」

スタスタと、執務室に備え付けのプリンターに向かうと、唐沢さんと葛西主任が顔を見合わせていた。

「……山根さんは切り替えが早いわねー」

「……それが彼女ですね」

だって、仕事だもの。仕事をしないといけないでしょ。

スイッチが入れば切り替わるのはいつものことだし。遊びに来ているわけじゃないんだし。
自分のパソコンがないから、一回一回、唐沢さんに聞かないといけないことも多いけど。

「私はノートパソコンを申請すべきでしょうか」

溜め息交じりに呟くと、主任が腕を組んで難しい顔をする。

「……数週間もすればうちに戻るのですし、と思っていましたが、やはり効率が悪そうですね。デスクを持ち込んでも問題ないなら、入れさせていただいても?」

言いながら、唐沢さんを見た。

「こちらは問題ないわ。どうせ他の子達は滅多にここに来ないし」
< 51 / 87 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop