心の中を開く鍵
「翔梧、免許なんて持ってたんだ?」

「高校卒業の時にな。大学時代は車が無かったから運転しなかっただけ」

「え。大丈夫?」

ペーパードライバーだったわけだよね?

「お前な。大学卒業して何年になると思ってる。だいたい営業車は乗り回してたんだし、今度ドライブ行こうって誘っといただろ」

それは、けっこう前の話かな。聞き流していたと思う。

考えながら、翔梧の今日の服装を眺めた。
色褪せたジーンズにスニーカー。
青っぽいボタンダウンのシャツに、大きめなカーキ色のブルゾン合わせている。

それから見慣れない、眼鏡をかけた横顔に首を傾げた。

「視力、落ちたの?」

「俺か? まぁ、昔よりはな。近視だから運転する時にはかける」

「ふぅん?」

そんなに悪くないってことかな。
仕事中でかけているのをみたのは一度きりだよね。

じっと見ていたら、ちらっと目が合った。

「お前、眼鏡フェチ?」

意地悪そうに笑われて、顔が熱くなる。

「ち、違うもん。単に見慣れないだけ! なんか頭良さそうに見えるし」

「ひでぇ……」

そう言いながらも翔梧は笑っていて、つられて笑いながらバックを探った。

「ねぇ……おにぎり食べてもいい?」

「昼飯……は、聞きそびれたか。コンビニ寄ろう」

「ああ。作ってきたし大丈夫」

「俺の分も?」

……ふたつ作ったけど、男の人がこんな小さなおにぎりで満足するとは思えない。

微妙な顔をしたら、声もなく笑われた。

「だよな? 俺も叩き起こされたようなもんだから。とりあえず軽くなんか買おう。飲み物もいるだろうし、手ぶらで参加も悪いし」

「じゃ、スーパーにしよう。いろいろあるでしょ」

とりあえず、アルミホイルを少し外して、おにぎりを一つ差し出したらキョトンとされる。

「いいのか?」

「どうせ朝ごはんも食べてないでしょ。買うからいいよ。ただのごま塩おにぎりでよければ」
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