心の中を開く鍵
秋口の夕暮れは早い。

夕闇が辺りを包み込む時刻になると、お腹がいっぱいになった双子ちゃんたちは、電池が切れたみたいにパッタリと夢の世界にいってしまった。

奥さんの膝枕で眠ってしまった彼女達を、そっと部長さんが抱き抱えてコテージに連れていく。

「私も、手伝ってくるわね」

奥さんがそう言ってコテージに戻ると、テラスに残されたのは、私と翔梧だけだった。

とても静かな夜に耳を澄ませると、遠くから鈴虫の鳴く声が聞こえる。

しばらくそれを聞いてから、小さく息をついた。

「ここは……とても静かね」

「そうだなー」

お互いにロッキングチェアに座りながら、足を伸ばして寛ぐ。

「部長さんて、面白い人だね」

「まぁ、多少強引だけど、いい人だよ」

翔梧は缶ビールを飲み、それから私をじっと見た。

「真由と、こんな風に遊べるとは思ってなかったな」

それは……どういう意味?

わからないから、訝しげに翔梧を見つめると、彼はどこか遠い目をしながら視線をテラスの外に向け、ふっと小さく笑う。

「大学時代、サークルの集まりに誘っても、いつも居心地悪そうに、俺にピッタリくっついてたから」

そうだったかな。でも、そうだったような気もする。

「……私は、そもそも人見知りなのよ。社会に出ると、それなりの社会性は身に付くものでしょう? それに子供を相手にして、もじもじしてどうするのよ」

「そっか。まぁ……だよなぁ。俺もガキだったしなぁ」

ブツブツ呟いている翔梧に、唇を尖らせて眉をしかめた。

「何が言いたいの?」

「俺もよくわかんねぇ。ただ、あの当時は、真由はサークルの集まりみたいなノリが嫌いなんだと思ってたから」

「慣れたら、そこそこ違う人とも話をしていたけど?」

何回か会ったことがある人がいれば、普通に会話していたと思う。

友達みたいに仲良く、とまではいかなかったのは、途中からそういった集まりに翔梧が誘わなくなったからだ。

だから、知人はいても……大学に友達はいなかった。

誘われもしないのについていく程、当時の私は人馴れしていなかったし。

「それに気がつく程、俺は大人じゃなかったってことだよ」

自嘲するような呟きに、目を見開いて翔梧を見た。

「……何。飲み会になると私を誘わなかったのは、私が人見知りしていたから?」

「……お前はあの頃はあんま飲めなかったし、楽しそうにしてるわけでもねぇし……って、これじゃ言い訳にしかならねぇから、やめる」

そう言って、黙りこんだ翔梧の横顔を眺めた。
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