心の中を開く鍵
「……言い訳でも、言った方がいいこともあると思うよ?」

小さく、囁くようにして言ったら、翔梧が振り返り、私の表情に気がついてぎょっとした。

「え。な……ちょっ? ちょっと待て、どうしてこのタイミングでお前は泣いてんだ?」

「酔ったからよ」

流れた涙をジャージの袖で拭きながら、缶ビールの空き缶をテーブルに置いた。

「いや。この間、大ジョッキでビール七杯飲んでピンシャンしてた女が、缶ビール二本空けたくらいで酔うかよ」

……ちょっと、冷静に返さないでよ。
しかも、人のこと酒豪かなにかみたいに言わないで!

「そういうことにしておいてよ、馬鹿!」

絶句した翔梧を睨んで、それから立ち上がる。

「もういい私も寝る! おやすみ!」

言い捨てて、コテージに戻ろうとサッシに手をかけたところで腕を掴まれて振り返った。

「離してよ」

「今、離したらダメだと思う」

どこか真剣な翔梧の顔を見上げ、それからぱっと視線を外した。

外した途端に、いきなり両手で抱え上げられた。

「きゃ……っ! ちょ……翔梧!?」

小声ながらも叫ぶ私を無視して、翔梧はテラスを横切ると、その手すりに私を座らせる。

それから私の目の前に立つと、偉そうに腕を組み、真面目な顔をして頷いた。

「さぁ、話せ」

どうしてそんなに偉そうなんだ。

そう思った瞬間に、目の前の翔梧の頭をグーで叩いていた。

「い……っ!」

頭を抱えながら翔梧は私を睨む。

「暴力反対だぞ、お前!」

「横暴も反対よ、私は!」

睨み返したら、翔梧は厳しい顔をしながら舌打ちした。

「こうでもしないと逃げるだけだろうが!」

「だって……知らなかったもん!」

「何をだよ!」

怒鳴りあったら、ガラッとコテージのサッシが開いて、眉間にシワを寄せた部長さんが顔を出す。

「話し合うのは必要そうだが、大きな声でやり合うなら、もっと離れてからやれ。うちの子が起きるだろうが。女泣かせてんじゃねえ、馬鹿野郎」

ピシャリと閉まったサッシをふたりで眺め、それから顔を赤らめた。
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