心の中を開く鍵
「……ちょっと離れるか」

「う、うん」

私も、このまま中に戻る勇気はない。

素直に頷いたけど翔梧は納得しなかったみたいで、手すりからそのまま抱き抱えられてテラスの階段を下りる。

「しょ……翔梧?」

「なんだ?」

「翔梧って、こんなに強引だった?」

「俺はしつこいし、強引だし、諦めも悪いぞ?」

……それはきっと、堂々と言うことじゃないと思う。

カサカサと落ち葉を踏みしめる音と、少し慣れてきた土のにおい。

しばらく歩き続けて、翔梧が私を下ろしてくれたのは、大きな岩の上だった。

「とりあえず、これ着てろ」

着ていたブルゾンを脱ぐと、翔梧はそれを私に差し出す。

「え。いいよ。翔梧、寒いよ」

返そうとしたら、無理矢理に肩に着せられて、袖も通していないのにブルゾンのジッパーを上げられた。

「男は女より体温高い生き物だから、気にすんな」

まだ温もりの残るブルゾンに、そうだとは思うけど……。

「真由、言いたい事があるなら、ちゃんとしっかり言え」

「……いいの?」

「覚悟はできてる」

いや、覚悟っていうかさ。

「翔梧、拘束の趣味があったの?」

「え……?」

翔梧の顔は見ものだった。月明かりに照らされて、ハッキリと見える。

最初、何を言っているのかさっぱりと言う顔をして……それからブルゾンに阻まれて身動きできないでいる私に気がついて、口をあんぐりと開けたかと思ったら、夜目にもわかるくらい真っ赤になった。

「ち、違う! そんな趣味はない!」

慌ててジッパーを下げてくれて、ホッとした。

「翔梧の大きいのに、私が着ても、案外動きにくくなるんだね」

「なんだそれ、馬鹿かお前は!」

「今のは翔梧が悪いし」

しれっとして言うと、翔梧は口元を手で押さえ、静かに目を瞑った。

「申し訳ない」

「……別にいいけど」

それきり、お互いに無言になった。
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