その手が暖かくて、優しくて
校舎に戻り、4階の防衛担当用部屋に戻った勝弥は室内にいた祐希を見つけて、

「祐希!余計なことすんな!」

「あ!勝弥さん!なんで僕だって分かったんです?」

「あんなもん…ほかに誰がやんだよ!」

「だって、あいつら勝弥さんにケンカ売りに来たみたいだったから、身の程を分からせないと…僕が立っている間は勝弥さんには指一本触れさせるわけにいきません」

「勝手にしろ!」

そう吐き捨てるように言った真鍋に祐希は続けた。

「勝弥さん!この前、久しぶりに商店街で他校の連中とやりあったそうですね。しかも、また例の女の子が原因とか?」

「お前には関係ない!」

「関係なくないっすよ。2年ほど前に、うちの生徒がひったくり被害にあったとかで勝弥さん、めちゃ切れて、『犯人見つけ出して連れて来い』って…あんときこの辺りの不良100人くらいが総出で、そいつ見つけ出したんですよ。あのときの被害者の女の子でしょ?今回も?あんとき僕が犯人見つけたんですよ」

亜里沙が高校に入ったばかりの頃、下校中にひったくりの被害にあったことがあった。
数日後に犯人が見つかり、盗まれたカバンも無事戻った。
犯人は受験でイライラしてやったと自供した付近の浪人生。

亜里沙は最初、犯人が自首してきたと聞いていたが、後日聞いた話では警察署の前に何者かにボコボコにされた犯人が置かれていて、それを見つけた署員に、
「全て話しますから、助けてください!」と泣きついてきたという。

いったい何が起こったのか当時の亜里沙には全く理解できなかったが、カバンも無事戻ったし、とりあえず
「ま…いっか…」
で片づけていた。

「あんとき、その女の子がケガもしたとかで…
あんなおっかない顔した勝弥さんを僕、初めて見ましたよ」

祐希の言葉を勝弥は無言で聞いていた。

両親の葬儀のとき勝弥の左手を黙って握ってくれた亜里沙のことを、勝弥はずっと好きだった。

そんな亜里沙がひったくりにあったと聞いて、しかも腕にけがをしたと聞いたとき、勝弥は体中の血が熱くたぎるのを抑えられなかった。

もし、そいつを見つけたのが祐希でなく勝弥だったら、もっと大けがをさせていたかもしれない。

「何かあったら、いつでも僕に言ってください。勝弥さんにとって大事な人は、僕や仲間たちで絶対守りますから」

祐希は眼鏡の奥に人懐っこい笑顔を見せながら、そう言った。


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