その手が暖かくて、優しくて
一方、山下健介は校舎の4階にある生徒会選挙管理委員会事務局室の前にいた。

彼の手には生徒会長選挙立候補届けの紙が握られていた。
昨夜一晩、彼は散々迷った挙句に決断したのだった。

仮に選挙には勝てないまでも、このまま何もせずに陰で愚痴ってばかりじゃ男としてみっともない。
彼はそう考えたのだった。


健介が生徒会長選挙に立候補したという情報は、すぐに綾小路の耳に入った。
「よりによってEクラスのやつが立候補だと…ふざけやがって…」
綾小路はプライドが傷つけられたような気がして、怒りに体を震わせていた。



その夜、
自宅で綾小路は、いまだ収まらない怒りに
「健介に対して、どのように思い知らせてやろうか?」
それを思案していた。

彼は繰り返し
「ふざけやがって、山下のやつ…絶対に許さない。俺様を誰だと思っているんだ?」

そんなことを一人で呟きながら、
今夜もシャワーあがりのバスローブ姿で、落ち着きなく部屋の中うろうろ歩き回っていた。

彼の計画では、無投票当選に批判が集まりそうになったら、予め彼が決めていた対立候補に立候補をさせ、それに圧勝するという筋書きも用意していた。
それなのに、全く予期していなかったことが起きたのだ。
山下健介がどういうヤツなのかも、いまだ彼には、なんの情報もなかったが、特に取り柄のないEクラスの生徒というだけだろう。
そんなやつが一体、何を考えて立候補してきたのか…
もし、ふざけてやったことだとしたら、これは許しがたい行為だ。


彼は、またもバスローブを脱ぎ全裸となって、ガラス窓に映る自分の姿を見た。

やっぱり美しい…俺は完璧だ。

彼は本気で、そう思っているのだ。やはり、変なやつである。
いつものように、それが彼の自信を取り戻させ、その自意識は過剰なまでに膨れ上がる。

「そうだ。俺は支配者なんだ。たてつくものは許さない。どんなに小さな敵だろうが全力で叩き潰す。それが王者だ。わははははははは!」


今夜もまた、彼の心の高ぶりはMAXに達し、それに突き動かされるように、彼の腰はリズムを刻むように前後左右に揺れ、次第に手足の動きも加わって、彼は踊り始めていた。

「わはははは!見てろ!山下!俺がお前の愚かさを分からせてやる!わはははは!」




その頃、またも綾小路家の隣に住む橋本家では

「ママ!また裸の『へんたい』が…怖いよ~!」

「舞ちゃん!見ちゃ駄目!」


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