その手が暖かくて、優しくて
しかし、その放課後、

選挙演説をする健介のもとに風紀委員の数名が近づいて行った。

「山下君、ちょっといいかな?」

「なんだよ!いま演説中なんだから、邪魔すんなよ」

そう言う健介に風紀委員の一人が
「実は…生徒からのタレこみがあったんだ。君が持ち込み禁止のものを持っているって」

「何言ってんだ。俺は何も持ってないよ」

「じゃあ、この場で身体検査させてくれないか?」
そう言う風紀委員たちに

「勝手にしろ!さっさと済ませろよ!」
健介は身体検査に素直に応じた。何も持ってないことは彼自身よく分かっていたし、身体検査で潔白をはっきりさせたほうがいいと考えたからだ。

ところが、
「何だ!これは?」
身体検査をしていた彼らが、そう叫びながら健介に見せたものはキャバクラのおねーちゃんの名刺だった。

「はあああああああ!!??」

健介は驚いた。
その名刺には出勤日と「また来てね」といったメッセージが手書きで書かれてある。
当然、健介が、そんな店なんて行けるはずもないし、そんな名刺に心当たりなんかあるわけもない。

そんな健介に風紀委員たちは
「これは重大な違反行為だな。そもそも高校生として道義的にも問題がある。」

「待ってくれ!そんなもの、俺は知らない!」

「いいから、取り調べ室まで来てもらおう。話はそれからだ!」

「俺は無実だ!ちゃんと調べてくれれば分かるはずだ。俺はそんなところへ行ったこともないし、そんな名刺も全く見覚えない!これは何かの間違いだ。」

「いいから!とにかく来るんだ!」

数名の風紀委員たちに健介は連行されていった。そんな健介を亜里沙は心配そうに見ていた。


取り調べ室で、ずっと黙秘を通してきた健介だったが、3日目の朝、そのあまりに厳しい取り調べに彼の心が折れた。

「ちゃんと自分の口で言え…やったんだな…」
そんな風紀委員の問いに

「はい、確かに…やりました…」

健介は連日、長時間に及ぶ取り調べに、風紀委員たちから自白を強要され、それに負けてしまった。この3日で、すっかり疲れきり、やつれてしまった表情で俯きながら、そう答えてしまったのだった。





「校長、Eクラスの彼には、これ以上落とすクラスはありませんし、もはや退学しかありませんな」
校長室で校長の向かいに座る綾小路が口元を緩めながら、そう言うと…
「君は恐ろしい男だな…」校長は目をつぶって、そう答えた。



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