その手が暖かくて、優しくて
生徒たちに「味方になってくれ」と訴える亜里沙のもとから離れ、瑞希は再び校舎内に戻った。
向かった先は理科準備室
周囲を警戒しながら、そこへ入った瑞希を金森が待ち受けていた。
彼が瑞希に話しかける
「佐藤さんから聞いて、ここに来ました。葉山亜里沙のことですか?」
「そうだ。お前のほうは大丈夫?奴らに疑われてないでしょうね」
「安心してください。俺が龍神会からのスパイだなんて微塵も思ってないようですよ」
「それならいいんだけど…」
瑞希が龍神会のトップだったのだ。
風紀委員がマークしている佐藤は幹部の一人にすぎなかった。
瑞希と金森との「飴を舐めていて摘発」の一件も、彼女にとって、CクラスにいるよりEクラスに移ったほうが動きやすくなることと、金森の地位と信用を風紀委員内で高めるためのことだった。
「うちらは亜里沙につく。全力であのこを勝たせるよ」
「わかりました」
「健介のバカと違って、亜里沙は戦う「旗」になれる。亜里沙には防衛部もついているみたいだし…あのムカつく綾小路たちを今度こそ、ぶっつぶしてやる!」
「それでは、俺は佐藤さんに話して、それぞれのルートから全員にそれを伝えるようにします。」
「そうして。『龍神会は葉山亜里沙を全力でバックアップする』と。」
「まったく…どういうつもりなんだ…」
綾小路華麻呂は生徒会長室でひとり呟いた。山下健介をつぶしたら、今度は女子生徒がまた立候補してきた。
「Dクラスのやつが、俺に勝てるとでも思ってんのか…」
椅子に座り足を組んだ華麻呂は、その組んだ足をせわしなく揺らしながら苛立っていた。
山下健介を嵌めたことについて、一部の生徒たちからも「やり方が汚い」といった非難が出ていると聞く。
確かに露骨すぎた。怒りに我を忘れて冷静さを欠いたやり方だったと華麻呂も反省していた。
そうした非難の声が今以上に広まり、それを対立候補に利用されたら思いもよらない苦戦を強いられるかもしれない。
「早いうちに何か手をうたないと…」
彼は左のこめかみを左の人差し指でトントンと叩きながら、またも悪巧みに考えを巡らせていた。
今後の選挙日程は3日後に全校生徒を前にして、候補者による演説会があり、さらに、その1週間後に投票。即日開票のうえ翌日には当選者による生徒会長所信表明演説がある。当面の山場は3日後の全体演説会だ。
「葉山亜里沙か…なんとしても叩き潰してやる。」