その手が暖かくて、優しくて
西暦20XX年、高等学校での生徒による自立した学校運営ができるよう、生徒会による自治権は、とても強大となっていた。
学校長と生徒会長は、ほぼ対等に意見交換ができ、学校の運営に係る全てが、生徒会による決定において、なされるようになっていたのだ。

ここ私立旭が丘高等学校も同じく、実権のほとんどを生徒会が握っており、その生徒会はいくつかの派閥にわかれているものの、基本的にAクラスの生徒を中心とする生徒会幹部が絶大な権力を持っていた。

現在の生徒会長は3年Aクラスの綾小路華麻呂(あやのこうじかまろ)。
綾小路財閥の御曹司で、成績も学内トップという嫌味な高校生だ。

そんな彼には、警察官僚を父に持つ風紀委員長の清宮公正(せいみやこうせい)や、
大手都市銀行頭取を父に持つ金田金好(かねだかねよし)会計委員長。
そして、地域の不良のトップで、伝説の暴走族「NORTHERN-WOLF」の初代総長、真鍋勝弥(まなべかつや)が防衛担当となる強力な側近を携えていた。

しかも綾小路は巨額の「おこずかい」にものを言わせ、この周辺の不良100人を「私設軍隊」のように保有していたのだ。それは、旭が丘の生徒以外に学校OBの者も含め、さらには全く旭が丘と関係のない者まで含まれていた。

そんな綾小路に反対するものは徐々に減り、あるものは退学し、あるものは陰謀に嵌められEクラスに落とされて、彼の独裁はゆるぎないものとなっていた。

「昼休み10分ずつずらし規則」も彼が生徒会に法案として提議し、可決された結果であった。

とある昼休み。
「さあ、新商品の『フィッシュサンドパン』を買い占めてきました。食べてください。」

薄暗い生徒会長室で
綾小路が数人のクラスメイトにパンをふるまっていた。

彼らは各運動部や文化部で部長を務めている者ばかり。

「次の生徒会長選挙が来月のGW明けにあります。なんとか僕が続投できるよう、皆さんで部員たちの票のとりまとめをお願いします。」

そう言う綾小路に部長たちは、

「わかってますよ。いまの旭が丘で綾小路君に対抗するやつなんていませんから、来週の公示後には誰も立候補しないんじゃないですか?まぁ立候補するバカがでてきても、我々は綾小路君をきっちり押しますよ。」

「それは心強い言葉です。頼りにしてますよ。」

そこには、コテコテの時代劇に出てくる悪代官と悪徳商人の匂いがプンプンしていた。


しかし、
その、あまりのツッコミどころの多さに、悪さ度合が薄く感じてしまう不思議さもあった。


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