その手が暖かくて、優しくて
野球部が練習をしているグラウンドの片隅で、龍神会の佐藤は野球部の部長、松田亮介と話をしていた。

「じゃ、頼んだぞ。」

「わかったよ!お前の頼みじゃ断れない。」
松田はそう答えてから、続けて

「しかし、いままで中立というか、こういうことに無関心だったお前らが、どうして今回は急に動き出したんだ。何か生徒会とあったのか?」

「いや。そういうわけじゃない。やっと動くときがきたんだ。」
佐藤は松田に答えた。

「葉山亜里沙って、何かあるのか?」

「さあ…わからん。でも『龍神会』をあげて応援する。これは決まったことだ」

「そうか。まぁ…うちの部員たちも今の生徒会を支持してるわけじゃないから、俺から後輩たちに徹底しとくよ」

「ありがとな。助かる」

「礼には及ばないよ。綾小路たちのやり方には、ずっと腹が立っていたんだ。だから今回、対立候補が出たって聞いたときも、正直、嬉しかったんだ。がんばれよ!」

これと同じようなことが校内のあちこちで行われていた。龍神会構成メンバー全員が選挙協力依頼に校内のあちこちを動き回っていたのだ。

「今回、葉山亜里沙を当選させたい。協力してくれ」

そんな彼らの呼びかけに、「しかし…そんなことやって生徒会に睨まれたりしないか?」彼らの部活動費予算も生徒会が握っていたため、彼ら龍神会からの協力依頼に躊躇する者もいたが、
もともと、綾小路に反発する者は大勢いたし、それを龍神会が大きな流れに変えようとしていることを知った者の多くが、それに賛同した。

「わかった。俺たちも協力する。」

そんな一つ一つの流れが、やがて、まとまっていき、生徒会長選挙の形勢は大きく亜里沙に傾き始めていた。これまで無関心を装い、見て見ぬふりをしていた者たちが、この大きな動きに触発され、これまで抑えていた不満を爆発させたのだった。




そんな龍神会がとった予想外の行動は風紀委員会でも掴んでいたが、彼らもその行動の動機に首をかしげていた。
「いったい、何があったんだ?なんで彼らが葉山亜里沙に…?」

清宮公正は委員たちからの報告を受けながら、突然吹き始めた選挙への逆風に、
「このままいくと、綾小路は負けるかもな…」
そう感じとっていた。


その頃、学校でそんな大きな動きが起こっていることなど、想像もしてない亜里沙は
「生徒会長に立候補した葉山亜里沙です。よろしくお願いしまーす。一緒に学校を変えましょう!」
と正門で大声をはりあげていた。


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