その手が暖かくて、優しくて
亜里沙は夢を見ていた。
夢のなかで、彼女は、まだ小学生。そこは誰かのお葬式のようだった。
たくさんの大人と、たくさんの子供。その子供たちは彼女が小学生だった頃の同級生たち
お寺の独特な雰囲気と、線香の匂い。

「ああ…思い出した。これは真鍋君のお父さんとお母さんのお葬式だ…」

真鍋君は?亜里沙が彼を探して、辺りを見渡すと、勝弥はいた。
その無表情な顔は、きっと悲しすぎたから…

そして、不機嫌そうな口元は、きっと涙を堪えていたから…

しばらくして黒い大きな車が、そこを出発しようとしたとき、

「真鍋君…」

彼は、すごく頑張って涙を堪えていた。そのとき亜里沙の胸に勝弥の気持ちが痛いほど伝わってきて、

気が付いたら亜里沙は勝弥の手を握っていた。

暖かくて、そして優しい彼の手を…


それからも、亜里沙は勝弥を見ていた。いつも。

勝弥は学校でも一人でいることが多くなり、彼のなかにある何かが爆発する度に、それは相手を殴って、傷つけて。
でも、それは彼自身も傷つけていることを亜里沙は知っていた。

周囲から恐れられるようになっていくにつれ、どんどん彼は孤立していき…

一度、ケンカした直後の勝弥を見かけた亜里沙は、怖いと感じることなく、なぜか、彼が泣いているような気がした。あの日、お葬式のときと同じように…

そのとき、亜里沙は、彼の手を握ってあげたいと思った。



そして…

気が付くと亜里沙は勝弥の背中にいた。
勝弥におぶってもらいながら、川の音がする道にいた。

そうだ…アタシ真鍋君に助けてもらって…

暗い道で、頭上からの月明かりを感じる。勝弥の背中は広く、暖かく、亜里沙は勝弥は草の匂いがすると思った。懐かしいような…
よく考えると、その匂いは彼女にとって幼かった日々の思い出の匂いだった。

ああ…だから、真鍋君がいると、アタシ安心するんだ…

そんなことを考えていた。

真鍋君…アタシね…

アタシね…






真鍋君が好きなんだと思う…





そこで、亜里沙は、突然けたたましく鳴った目覚まし時計に起こされた。
彼女は自宅のベッドの上。
昨夜、勝弥に家まで送ってもらい、それから…

確かベッドに入ったのは3時過ぎだった。

今日は全校演説会。

しばらく、ぼぉっとしていた亜里沙だったが、

「よし!やろう!」

亜里沙は一人で、そう言うとシャワーを浴びるため、部屋を出た。



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