その手が暖かくて、優しくて
華麻呂の演説が終わり、いよいよ亜里沙の演説となった。
彼女はゆっくりとスピーチ台の前に進むと、一度深呼吸をした。
「皆さん。こんにちは。今回生徒会長選挙に立候補した葉山亜里沙です。」
生徒たちは静かに亜里沙の演説に耳を傾けている。
台の上に置いたスピーチ原稿を見ながら、亜里沙は今の生徒会のやり方について、不満に感じていることを話し、瑞希がまとめてくれた問題点をひとつずつ丁寧に説明しながら、その改善のためには生徒の意見が反映される生徒会運営が必要であると訴えた。
「皆さんもご存知のように、アタシの前に立候補した山下健介君は今、いません」
ちなみに健介は停学になっているだけで生きている。
「最初は山下健介君の無念をはらしたいと思って立候補しましたが…いまは、自分が思う『信念』のために、ここにいます。でも、それによって山下健介君もきっと、浮かばれることでしょう。」
繰り返すが、健介はちゃんと生きている。
「どうか、このアタシに力を貸してください!」
広い体育館のなかに、生徒たちの拍手が沸き起こった。
亜里沙は正面を向き直り、そして一礼をした。
再び顔を上げた亜里沙は自分に拍手をしてくれている聴衆を、もう一度見渡した後、檀上脇の勝弥を見た。
相変わらず勝弥は会場全体を見渡すべく前を向いたままだったが、聴衆たちと同じように拍手をしてくれていた。
演説会での手応えは十分だった。
「亜里沙~良かったよ!良かったよ!」
瑞希が亜里沙に駆け寄ってきた。
「ありがとう!瑞希のお蔭だよ!原稿もほとんど瑞希が書いてくれたんだし…」
これで勝てる。瑞希は確信していた。しかし相手はあの綾小路だ。
何をしてくるか分からない卑怯な相手に勝つためには、まだ油断は禁物だった。
一方、華麻呂は苛立っていた。演説会でも明らかに今、勢いは亜里沙にある。
このままでは負けるかもしれない。
「少し敵を侮って、手を抜きすぎていたな…本気でやるぞ」
不利な状況に浮足立つ金田をしり目に華麻呂は一人呟いた。こんなはずではなかった。
今回も楽勝で生徒会長を続投できると信じていた。
昨夜の亜里沙の拉致にしたって、念のため打っておいた手であって、仮に演説会に亜里沙が出たところで問題ないとも思っていた。
しかし、何だ…今の、この学校内の空気は?
ほとんどの生徒が亜里沙に付き、彼女を応援しているように華麻呂には感じられた。
いったい…たかがDクラスの一人の女子生徒に何があるというのだ。どんな力を秘めていると…
華麻呂は唇を強く噛んだ。そして瑞希と話している亜里沙のほうを向き、呟いた。
「今のうちだけだ。今に見てろ!葉山亜里沙」
彼女はゆっくりとスピーチ台の前に進むと、一度深呼吸をした。
「皆さん。こんにちは。今回生徒会長選挙に立候補した葉山亜里沙です。」
生徒たちは静かに亜里沙の演説に耳を傾けている。
台の上に置いたスピーチ原稿を見ながら、亜里沙は今の生徒会のやり方について、不満に感じていることを話し、瑞希がまとめてくれた問題点をひとつずつ丁寧に説明しながら、その改善のためには生徒の意見が反映される生徒会運営が必要であると訴えた。
「皆さんもご存知のように、アタシの前に立候補した山下健介君は今、いません」
ちなみに健介は停学になっているだけで生きている。
「最初は山下健介君の無念をはらしたいと思って立候補しましたが…いまは、自分が思う『信念』のために、ここにいます。でも、それによって山下健介君もきっと、浮かばれることでしょう。」
繰り返すが、健介はちゃんと生きている。
「どうか、このアタシに力を貸してください!」
広い体育館のなかに、生徒たちの拍手が沸き起こった。
亜里沙は正面を向き直り、そして一礼をした。
再び顔を上げた亜里沙は自分に拍手をしてくれている聴衆を、もう一度見渡した後、檀上脇の勝弥を見た。
相変わらず勝弥は会場全体を見渡すべく前を向いたままだったが、聴衆たちと同じように拍手をしてくれていた。
演説会での手応えは十分だった。
「亜里沙~良かったよ!良かったよ!」
瑞希が亜里沙に駆け寄ってきた。
「ありがとう!瑞希のお蔭だよ!原稿もほとんど瑞希が書いてくれたんだし…」
これで勝てる。瑞希は確信していた。しかし相手はあの綾小路だ。
何をしてくるか分からない卑怯な相手に勝つためには、まだ油断は禁物だった。
一方、華麻呂は苛立っていた。演説会でも明らかに今、勢いは亜里沙にある。
このままでは負けるかもしれない。
「少し敵を侮って、手を抜きすぎていたな…本気でやるぞ」
不利な状況に浮足立つ金田をしり目に華麻呂は一人呟いた。こんなはずではなかった。
今回も楽勝で生徒会長を続投できると信じていた。
昨夜の亜里沙の拉致にしたって、念のため打っておいた手であって、仮に演説会に亜里沙が出たところで問題ないとも思っていた。
しかし、何だ…今の、この学校内の空気は?
ほとんどの生徒が亜里沙に付き、彼女を応援しているように華麻呂には感じられた。
いったい…たかがDクラスの一人の女子生徒に何があるというのだ。どんな力を秘めていると…
華麻呂は唇を強く噛んだ。そして瑞希と話している亜里沙のほうを向き、呟いた。
「今のうちだけだ。今に見てろ!葉山亜里沙」