その手が暖かくて、優しくて
「野球部、サッカー部、吹奏楽部が全員『葉山亜里沙の応援はできなくなった』と言ってきました。」

「合唱部とソフトボール部が申し訳ないが、今回も綾小路に票を入れると、こちらからの協力依頼を断って来ました。」

次々と瑞希の耳に入る悪い知らせに
「やっぱり…たぶん、綾小路のやつ『家の力』を使ったな…」
瑞希は予想していた最悪の展開に、悔しさから唇をかんだ。


「佐藤は捕まっているんだな…金森は無事か?」

「はい、正体はバレていません。」

「残っている幹部たちに連絡をとって。早く何か巻き返し策を考えないと…」



密かに集まった龍神会幹部と瑞希は今の状況についての情報分析をしながら、今後の巻き返し策をどうするかを考えていた。

「野球部の部長の父親が綾小路グループ企業から仕事を請け負っていて、そこからの圧力があったようです。またサッカー部の部長の親は綾小路家が経営する会社に勤めているようで、それもおそらく…。他にも、多くの生徒がそういった事情から綾小路に協力せざるをえないんだと思われます。やはり日本を代表する大財閥の綾小路家が、特に、ここ地元エリアで持つ影響力は強大です。」

「そうか…票の予想はどうなっている?」

「おそらく綾小路400、葉山亜里沙が200といったところでしょうか?」

「たった一日で大逆転だな」

「どうしますか?瑞希さん」そう尋ねる金森に

「とにかく金森は今までどおりで。ただ、何かやつらの弱点というか、綾小路にとって致命的となるような悪事の証拠が掴めれば…
もはや、あいつらを倒すにはそれしかない。」

「わかりました。やってみます。」




一方、
その夜、華麻呂は部屋で一人、勝利の感触に酔っていた。
「見たか!俺様の力を、貴様ら下々の者はたてつくことすら許されないのだ」

現在の票の予想では、綾小路の勝利は間違いない。いつものバスローブ姿で華麻呂は、それを確信した喜びに浸っていた。

またもカーテンを開け、バスローブを脱いで全裸となった彼は、恒例のダンスを始めるのかと思いきや、この夜の彼は違った。

「今夜は久しぶりに、アレをやるか…」

アレとは、満月のパワーを体に取り込む儀式のようなものだ。
まさに、その日は満月。空には丸く輝く月が昇っていた。

華麻呂は窓に尻を向ける形で四つん這いになり、さらに尻を高く突き上げ、両手でその尻をつかんで、肛門を広げて月に向ける態勢をとった。

これにより、満月のパワーを直腸吸収するというもので、綾小路家に古くから伝わる伝統儀式だった。

「我に力を~、我に力を~」
華麻呂は、そんな態勢のまま、何度も繰り返し念じ続けていた。





そして
この日、綾小路家の隣に住む橋本家からは悲鳴があがった。


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