その手が暖かくて、優しくて
それから数年が経ち彼女は中学3年生になっていた。
このまま、今年の秋になれば、そろそろ受験生として
勉強に専念しなくてはいけない。そんな時期だった。

「亜里沙、そろそろ志望校決めた?」

学校の近くを流れる川に沿って続く道。車道と分かれていて、そこを通るのは犬を連れて散歩をする付近住人と、ときおり自転車がゆっくりと走るくらい。道の両側は草が茂り、緑に包まれている。空は夕焼けに赤く染まり、まだ蒸し暑い空気のなかを吹き抜ける風は草の匂いがして、川から聞こえる水の音は耳に心地よかった。

そこを歩きながら、当時から親友だった亜里沙に瑞希が尋ねた。

二人とも肩に付くくらいの長さで黒くストレートの髪型
やや瑞希のほうが背が高いくらいで
並んで歩いていると姉妹のようにも見える。


「うん…まだ迷ってる。この前の摸試の結果が悪かったからなぁ…」

亜里沙は軽く溜息をついてから、そう答えた。そして

「瑞希のほうこそ、高校、どこにするか決めたの?」

「アタシも迷ってる…でも…亜里沙、笑わないで聞いてくれる?」

「え?何?」

「実はアタシ、将来アイドルになりたいんだ」
真面目にそう言った瑞希に亜里沙は

「いいじゃん!うん!瑞希ならなれるよ!」

亜里沙は心からそう思っていた。
明るく「イケてる」感じの同級生には気後れしてしまい、
中学に進学してからも、しばらくはなかなか友達ができなくて、休み時間の教室でも一人でいることが多かった亜里沙と違い、
二重の大きな目に形の綺麗な鼻と大人びた輪郭を持つ瑞希は「美人タイプ」

亜里沙はそんな瑞希のおかげで活発になれたし、彼女の中学生活は楽しいものになった。

瑞希も、亜里沙のことは親友だと思っていたし、いつものように、思ったことをストレートに表現する彼女の言葉が瑞希は嬉しかった。

「だから、都内へ出る私鉄の沿線にある旭が丘高校に行きたいなぁって考えてるんだ」

「そっかぁ…じゃあ、アタシも『旭が丘』受験しよかな…」


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