その手が暖かくて、優しくて
「ただいまぁ」
亜里沙と途中で別れて、家に帰った瑞希の足元に、ハナが近づいてきた。
「ハナ、ただいま!」
ハナはもう10歳を超えたシーズー
瑞希が小さい時から一緒だった。
以前は彼女が帰ってきたら勢いよく駆け寄ってきたのに
もう「おばあちゃん」になってしまったハナは
それでも、ゆっくりとだが瑞希が帰ってくると必ず出迎えてくれる。
「たまには、もうちょっと早く帰ってきてハナの世話してやれないの?」
そう言う母に
「だって、部活も最後だし、いろいろ、やることも多いの」
そう言って2階にある自室に向かう瑞希を寂しそうにハナは見ていた。
しかし、瑞希にとって、そんなハナとの別れは、突然やってきた。
「ただいまぁ」
ある日、いつものように学校から一緒に帰って来た亜里沙と別れて、瑞希が家に帰り着くと…
玄関への廊下は静かなままだった。
いつものようにハナが出迎えに来ない。
「どうしたんだろ?」少し気になって
「おかあさん、ハナは?」
そう言いながらリビングに瑞希が入っていくと
ハナはリビングの床にしかれた毛布のうえに横たわっていた。
「病院には連れていったんだけど…もうだめかもしれないって…」
そんな母の言葉を聞きながら、悲しい気持ちで
瑞希は弱々しく横たわるハナを眺めていた。
ハナの寿命は分かっていたが、こんな日が来るなんて、瑞希は想像もしていなかった。
ずっと、ハナは瑞希の側にいると思っていた。
「ハナ…死んじゃうなんて嫌だよ…」
それから、さらに数日が過ぎ、
ついに、その日は訪れてしまった。