その手が暖かくて、優しくて
「現在の予想では、さらに票数は伸びて、綾小路君が450票に対して葉山亜里沙150票です」

「そうか。ご苦労。」

華麻呂は余裕の表情で、その報告を受けた。
ここ数日、まさかの出来事に慌てたときもあったが、最後にはこうなるんだ。
華麻呂は改めて勝利を確信した。
しかし、今回の選挙では予定外に金がかかった。亜里沙の拉致や龍神会の制圧に彼の私設軍隊を使ったため、彼らへの報酬が膨らんでしまったためだ。
今回のことでは、彼の父親に泣きついて、助けてもらっているため、これ以上、お小遣いまで余計に貰うことはできない。


「近いうちに金田と相談しなきゃいけないな」

選挙活動資金が赤字となってしまった華麻呂は会計係である金田にその埋め合わせと帳簿操作を指示するつもりだった。

これまでも何度も同じことを繰り返しやっていたし、今回も上手くやれる
そんなふうに華麻呂は甘く考えていたのだ。

生徒会は一年に500万円ほどの予算を持っていた。各生徒が月に500円だから、年間で6000円ずつ納める生徒会費に学校からの交付金が主な内訳である。しかし、この管理は綾小路の金銭感覚のズレや意識の甘さによりズサンなものとなっていた。

よって年一回の監査に耐えうるべく金田によって二重帳簿が作られていたが、そんな状況に金田までもが私的に流用するようになっており、いまや三重帳簿まで存在する有り様だった。



その頃、風紀委員に逮捕された龍神会の佐藤への厳しい取り調べは連日に及んでいた。
風紀委員は龍神会の全容、特に「トップ」は誰なのかということを、彼に繰り返し尋ねたが、彼がそれを口にすることはなかった。

一日中行われた取り調べが終わり、彼は狭い部屋に監禁されていた。
そこへ、ひとりの風紀委員が入ってきた。スパイとして風紀委員に潜り込んでいた
金森である。

「大丈夫ですか?佐藤さん。」

「ああ…なんとかな」

「見張りは追っ払ったから、いまのうちです。ここを脱出しましょう!あんたに手伝ってもらいたいことがあるんです。」

金森に連れられて、佐藤は監禁から逃れることができた。

無事に外に出て、金森は佐藤に尋ねた。
「しかし、あんたみたいな猛者を、いったい誰が逮捕したんですか。風紀委員が10人くらい束になっても、あんたなら、いくらでも逃げ切れただろうに?」

そんな金森の問いに佐藤は苦々しい表情で答えた。


「『ごんぞう』だ…」

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