その手が暖かくて、優しくて
「さあて…とりあえずお前をボコボコにしてから、後ろの女子は俺たちと楽しくやろうぜ。いいだろ?」
芝久代学園の不良のひとりがニヤニヤしながら、健介と、彼の後ろにいる亜里沙に言った。

健介は最悪でも、「亜里沙だけは、この場から逃がさなきゃいけない」
そう考えたが、どうやって逃がせばいいのか困っていた。

とても彼ひとりで5人を相手にできるはずもなく、そんな状況で亜里沙を逃がしきれる自信もなかった。

そんなことを健介が考えているうちに、
いきなり、彼らのひとりが健介に殴り掛かってきた。

「うわ!」
思わず健介は体を固くして目を閉じてしまった。

しかし

「うがぁぁっ!」

健介に殴り掛かってきた芝久代学園の生徒が、みっともない悲鳴をあげて倒れた。

「…………!」

健介が目を開けると、そこには真鍋勝弥がいた。

「いや…俺たちは別に…」

芝久代学園の連中も有名な勝弥のことは知っていた。
彼らは突然現れた勝弥の姿に怯えながら、

「俺たちが、ここ歩いていたら、あんたんとこ生徒が、いきなりケンカ売ってきたんだよ。俺たちはあんたんとことケンカするつもり全くないから…」

すっかり逃げ腰になって、そう言う芝久代学園の1人に、
長い前髪から覗く切れ長の目に殺気を漂わせながら勝弥は

「何、ベラベラしゃべってんだ?俺は何も聞いてねえよ。」

「真鍋さん!誤解です。すいませんでした。」
そう言いながら後ずさりする男に強い蹴りを入れながら、

「お前…しゃべりすぎだ。うざい。」

無言で蹴り続ける勝弥に、他4人の芝久代学園の生徒たちは逃げてしまった。

「すいません!許して!許して!」
1人残された生徒が、うずくまって泣きながら、そう言うのを聞いて、ようやく勝弥は攻撃を止めた。

「真鍋君、ありがとう」そう言う亜里沙に、

「うちの生徒を守んのが俺の役目だから」

亜里沙の顔も見ずに、そう言うと、
勝弥は、商店街を歩いて行ってしまった。

「噂は聞いてたけど、ケンカは初めて見た。すげえな真鍋って!」
健介は勝弥が歩いて行った方向を見ながら亜里沙に言った。

「うん…でも…真鍋君、本当は、あまりケンカしたくないんじゃないかな…」

「え?なんで、そう思うんだ?」

「うん…なんとなく」

「でも、あいつのお蔭で助かった。俺だけじゃ亜里沙守ってやれなかった…」

ちょっと情けない表情で呟く健介に

「ううん!健介が必死で守ろうとしてくれたからだよ。カッコよかったよ」
亜里沙は笑顔で言った。

< 5 / 68 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop