その手が暖かくて、優しくて
「あと、考えられるとしたら…綾小路が全て持っているとか…?」
佐藤がそう言ったが、瑞希は

「それは、ないと思う。帳簿の改ざんについて、その実務は金田が1人で、やっていたはず…」

その話を聞いていた金森が意見を挟んだ。

「もしかしたら…紙ベースでしか残してなかったのかも…用心深いあいつらだからこそ、それはあり得る。」

金森の話を聞いて、佐藤も瑞希も「それだ」と思った。

「しかし、それを金田たちは、どこに隠しているんだろう?」

金森が風紀委員にスパイとして潜入し、長期に渡って調べたが、そのようなものが置かれていそうな場所に心当たりはなかった。

「たぶん…金田が自分の家に持っているんじゃないかな…」
瑞希が言った。

確かに、それが一番、可能性が高い。しかし、学校の校舎と違い、金田の自宅に侵入するわけにもいかず、佐藤も金森も黙り込んでしまった。

「大丈夫。金田の家にあるなら、なんとかなるかもしれない」

瑞希は以前に金田から貰った手紙のことを思いだしながら、そう言った。
そして続けて、

「そんなことより…その帳簿改ざんの証拠が手に入ったとして、それを使って、どのように綾小路を追い詰めるかが問題よ。もう選挙まで日がないし、時間を稼がれても、うちらにとっては不利だし、そもそも、せっかく手に入れた証拠が、もみ消されるかもしれない。」

そんな不安をもらす瑞希に金森は

「それなんですが…風紀委員から、この綾小路の不正について学校裁判の開廷を提議させましょう。それも、投票日の前の日に」

「そんなことできるの?それに風紀委員長の清宮は綾小路側の人間じゃ…」

「確かに彼は現生徒会執行部の中心人物だが、俺が知っている限り彼なら、やると思う。その裁判の場で、多くの生徒たちの目の前で綾小路の不正を暴き出せれば、もう、やつに逃げ場はない。清宮には俺が説得してみます。」

4人は金森の話を聞いて、少しだが希望が出てきた。
昼休みの打ち合わせでは(もう…無理かも…)と誰もが考えてしまったが、
今は(まだ、やれる!)
そう考えられるようになっていた。

「もう、それしか手がないようだし、とにかく、やろう!」

そんな瑞希たちの会話を、亜里沙は黙って聞いてることしかできなかった。




「それは本当なのか?」
金森からの進言に清宮はそう言った。

「はい、間違いありません。物的な証拠はその場で提出します。信じてください。」

いまの綾小路の独裁下で、彼を追及する証拠品を予め提出すれば、もみ消される可能性が高いと考えるのは無理もない。しかし、証拠品もなしに状況証拠だけで綾小路の不正を訴える金森のことを清宮が信じた理由は、彼自身、随分前から同じ疑惑を綾小路に対して持っていたからだ。

「わかった。今日の議会で俺から提議する。」


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