その手が暖かくて、優しくて
綾小路グループの中心である綾小路家は、都内にある広い敷地内に豪邸を構えていた。

その夜、
18時頃に帰宅した華麻呂は、夕食後にシャワーを浴びてバスローブ姿のまま、彼の部屋の大きな椅子に座って、くつろいでいた。

この時点で、すでに変な高校生である。

そんな彼の頭の中は1ヶ月後の生徒会長選挙のことでいっぱいだった。

「組織票は固めたし、ほぼ大丈夫だろう」
そう考えてはいたものの、用心深い彼は更なる票の積み上げ確保のため、次なる手段に思案をめぐらせていたのだ。

綾小路家の跡継ぎとして、彼は幼いころから帝王学を学び、将来に大きな野望を持っていた。それは、絶大な権力を持ち、全ての人間を支配することだった。
自分はそのために生まれてきたのだと、彼自身、そのことを信じて疑うことはなかった。

現在の生徒会長職は、その野望のための、最初のステップに過ぎなかった。
特権意識の強い彼は、自分のようなリーダーが生徒たちを支配し、彼らを導いてやることが生徒たちにとっても幸せなことであり、生徒たちも華麻呂のような人間に支配されることを望んでいるはずだとまで考えていた。


彼の部屋は二階の角にあり、南に面した側は大きなガラス窓によって「ガラス張り」状態だったが、ふと、彼は、その窓にかかっていたカーテンを開け、バスローブを脱いだ。

夜の室内では、その南側一面の大きなガラスが鏡のように全裸となった彼を映し出していた。
背は高くなく、細い体だったが、適度に筋肉がついており、手足の長さや、そのバランスも含めて、華麻呂は自分を

「美しい…」と思った。

そのことで、彼のなかで自信は膨らみ、異常なまでの歪んだ自意識も、合わせて膨張していった。

やがて、全裸の彼は、その膨らんだ黒い心のうちを吐き出すように声に出していた。

「俺こそ全てにおいて、人のトップに立つべき指導者であり支配者となる選ばれた人間なのだ。」

彼の心のなかの野望は膨らみ、それに突き動かされるように、彼の腰はリズムを刻むように前後左右に揺れ、次第に手足の動きも加わって、彼は踊り始めていた。

「わはははは!待っていろ!愚民ども!俺が愚かなお前たちを導いてやる!わはははは!」





その頃、綾小路家の隣に住む橋本家では

「ママ!また裸の『へんたい』が踊ってるよ!」

怯える五歳の女の子に母親が
「舞ちゃん!見ちゃ駄目よ!」

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