その手が暖かくて、優しくて
金田の部屋は壁から天井にいたるまで「ぷるる」だらけだった。
何枚あるか数えるのも面倒くさいほどの数のポスターに、最近、発売された写真集は5冊もある。

そんな部屋を黙ったまま見渡していた瑞希に
「何か飲み物を用意してくるから、座って待っててね」

金田は瑞希を部屋に招いた興奮にウキウキしながら、階段を降りて行った。

一人になった瑞希はさっそく行動を開始した。机の引き出しのなかは、もちろん、ベッドの下やクローゼットの中まで探したが、目的のものは見つからない。

「もうっ!どこよ!」
瑞希は焦った。

しかし、そこへ
「紅茶でいいかな?」
そう言いながら金田が部屋に戻ってきた。

時計をちら見した瑞希は

(もう…裁判が始まっちゃう…)

時刻は16:45になっていた。



体育館のなかに開設された校内裁判法廷に、被告人の綾小路華麻呂と告発した風紀委員の清宮と金森が入廷し、両者は相対する形で着席した。

体育館のなかには、それを傍聴するため、ほぼ全ての生徒が集まり、皆が、それぞれに裁判の予想を語り合いながら、その開廷を待っていた。

「どうするんだ?お前が言ってた決定的な証拠品は本当に届くのか?」
不安そうに尋ねる清宮に

「必ず、届きます。」
金森は向かいに見える華麻呂を睨み付けるように見つめながら、そう言った。




「ぷ…ぷるるのファンなんだね…金田君…」
全く会話が弾むわけもなく、金田と二人きりの部屋での重い空気に耐えきれず、
瑞希が口を開いた。

「え!もしかして気分を悪くした?」

「いや、いや、いや、全然大丈夫!」

そんな二言を交わしただけで、再び部屋の中は沈黙に包まれた。

そんななか、座り直したりしながら、少しずつ、じわじわと瑞希との距離を縮めてくる不気味な金田の行動と、沈黙ゆえに、
(なんだか…やばい空気だなぁ…)

そもそも、こんなことをしている場合ではない。



「何やってんだろ…?瑞希」
金田の家の外では、亜里沙と佐藤のほか数人の龍神会のメンバーが瑞希を待っていた。家に入って行ってから、もう1時間以上経っている。
今頃、体育館では学校裁判が始まった頃だろう。
「大丈夫かなぁ…瑞希…」亜里沙は心配そうに金田の部屋の窓を見上げた。

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