その手が暖かくて、優しくて

「これより開廷します。」
体育館では、定刻となり、ついに綾小路華麻呂の生徒会費私的流用に対する学校内裁判が始まった。

裁判の冒頭で、告発した清宮が、
「ここにいる綾小路華麻呂は生徒会を私物化し、ついには生徒会費を私的に流用し、また、その行為の隠ぺいのため、会計係りに命じて帳簿の改ざんを行っていました。このことについて、我々風紀委員は彼を即刻、生徒会長の役から解任し、横領罪として、退学させること求めます。」

そんな清宮の言葉を苦々しい表情で、かつ余裕のある顔で華麻呂は聞いていた。
開廷される現時点に至って、風紀委員がなんらかの証拠を掴んでいるという情報は入ってきていなかった。
「ばかめ。どうせ俺は無罪になる」
華麻呂は、そう考えていた。



一方、金田家では

「金好ぃ~お客さん来てるの?」

階下から声がする。金田の母親だった。
帰宅してみたら、息子が帰っている。しかも玄関には女性ものらしき靴がある。
おそらく学校の同級生らしい。

「ああ…あの子にもやっと、彼女ができたのね…」
母は思った。

親の目から見ても、「この子はどーも『おっさんくさい』ところがある。最近ではアイドルにのめり込み、こんなことでは、ちゃんと普通に恋愛とかできるんだろうか?」と心配していたのに…

そうして安心すると、今度はどんな娘か見てみたいと、普通に興味が湧いてくる。

「金好ぃ~何か飲み物でも入れようかね~」

「あるから、いいよ!」

「じゃあ!お菓子とかいらないかい?ケーキあるよ!」

下世話な好奇心に突き動かされ、何かと理由を付けて金田の部屋に入ろうとする母に
金田は焦り、何とか、それを防ごうとする。

「いいから!階下(した)に行っててよ~!」

しかし、そこへ別の声も聞こえてきた。

「えー!お兄ちゃんの部屋に彼女が来てるって~!」

金田の妹も帰って来たらしい。



(これは…なんだか…すごく面倒くさい事態になったぞ…)

瑞希はそう思ったが、

「ごめん。ちょっと待っててね」
金田の部屋の前に集まった母と妹を下の部屋に帰すために、再び金田が部屋を出て行った。


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