その手が暖かくて、優しくて
そこへ、
体育館の扉が開き、息を切らした亜里沙が現れた。
その手には、瑞希から受け取った手提げバッグが。

「証拠なら、ここにあります!」

清宮と金森の席に歩み寄って、亜里沙は手提げバッグの中身を目の前の机の上に並べた。

それらは、帳簿を改ざんした証拠となる元帳簿や元々帳簿のほかに、明らかに私的用途と思われる領収証や、口座への送金と証拠隠ぺいを金田に指示した華麻呂の直筆のメモまで…

「…あ………」華麻呂は青くなった。

「これらの物的証拠により、綾小路華麻呂の生徒会費流用と帳簿改ざんをはじめとする証拠隠ぺい、ならびに生徒会議会への虚偽報告を行ったことは明白です。」

これに対し、華麻呂はもはや、なんの反論もできない。
目と口を開いたまま
やっと椅子に座っている状態で、彼は廃人のようになっていた。


綾小路帝国が倒れた瞬間である。


「やったぁぁ!勝ったぁぁ!」

亜里沙が叫んだ。
そこへ、遅れて祐希のバイクに乗せられて、ここに到着した瑞希も体育館に入ってきて、亜里沙に駆け寄った。

「亜里沙!」

「瑞希~!やったよ!勝ったよ!アタシたち!」

「うん!うん!やったんだね!」

2人は抱き合って喜んだ。

「瑞希のお蔭だよ。今回の作戦が上手くいったのも、瑞希が『ぷるる』にそっくりだったからだし…」

「金田の家ではヒヤヒヤしたけどね」

「でも、瑞希って、本当に似てるよね『ぷるる』に」

「ふふふ…」瑞希は少し、いたずらっぽく笑ってから

「あたりまえじゃん!だって、あれ、アタシだもん」

「え!」亜里沙は驚いた。

(じゃあ…以前言ってた都内でのアルバイトって…??)

驚いて固まる亜里沙の隣で瑞希は最高の笑顔で亜里沙にウインクした。




「おお!盛り上がってるな…」体育館内の様子を見ている祐希の後ろから勝弥がやってきた。
「あ、勝弥さん、すごいっすね…彼女。実を言うと綾小路に勝てるなんて、絶対、無理だろうって思ってたんです。」

「俺も、そうだった。だが途中で変わった。」勝弥の頭に、両親の葬儀のとき手を握ってくれた亜里沙が蘇っていた。

「亜里沙は、自分では何もできないのに、味方を作る天才だ。あいつの周囲で誰もが、アイツを助けたいって思うようになる。でもそれは、あいつが人の心を癒す天才でもあるからだろうな…」

「勝弥さん…本当に惚れてますよね。」
そう言った祐希はいつものように「うるさい!」と照れながら強張った顔を見せる勝弥のリアクションを予想していたのだが、その日は違っていた。






「ああ!大好きだ!」




祐希はにっこり笑って、
「実は僕も、ちょっと気になる人ができました。」
「はぁ?お前がか?」
「ええ、瑞希さんです。」
勝弥は少し笑って、
「そういや…お前が金田んとこから瑞希をここまで乗せて来てくれたんだったな」
「瑞希さん…美人ですよね…」
「あはは!だが、年上だし…あいつはキツイぞ…」
「僕は、そういうひとが理想なんです。」
「そうか…」


一方、太田原権三は例の公園にいた。そこには相変わらずあの日の捨て猫たちがニャーニャー鳴いていた。
しかも、どうやら権三に懐いてしまっているようだ。
「しょうがねぇな…」
そう言った権三はそのネコたちを抱えて、笑顔で歩きだした。


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