イジワル同居人は御曹司!?
「大丈夫か?」

奏さんの茶色い瞳が心配そうに私の顔を覗き込む。

気付けば奏さんは私の身体を跨ぎ、ベッドの上で膝立ちの体制になっている。

「大丈夫ですけど…あの…顔が近いです」

私は遠慮がちに突っ込んだ。

「おっつ!」奏さんは慌ててベッドから飛び降りる。

「今のはやっぱりセクハラか?!セクハラの類に該当するのか?」

「セクハラじゃないとおもいます。多分…」

彼は親切でやってくれたことなので一応否定しておく。

「そ、そうか!危ないとこだったな」

奏さんはホッと安堵の笑みを浮かべて眼鏡のズレを直す。

甲斐甲斐しく私の手をとると立たせてくれた。

腰に手を回し支えられながらゆっくりと階段を下りていく。

ようやくリビングのソファーに腰を下ろすと私は大きく肩で息をついた。

移動するのも一大事だ。

恐るべし…ぎっくり腰。

食事はいつもキッチンで食べているが、椅子が固いので今日は特別にリビングで夕飯を食べることになった。

テレビを見ていると、奏さんが土鍋とレンゲ、お椀をトレイに載せて持って来る。

私は怪我をしているが病人ではないので、消化にいいものじゃなくても全然大丈夫なのだけど。

しかし折角作ってくれたので「美味しそうですね」と言ってみる。

「それ程美味くもないだろ。お粥だぞ?」

…奏さんには気使いは不要かもしれない。
< 116 / 328 >

この作品をシェア

pagetop