イジワル同居人は御曹司!?
「これから忙しくなるな」

「当分デートはお預けね」

私が目を細めて冷やかすように言うと、桜井はハハと笑った。

「そんな相手、元からいませんけど」

…じゃあ、今桜井はフリーって事?

思わず私は期待の視線を向けてしまった。

「うそ…」

「嘘じゃない、から、今度さ」

桜井が言いかけたところで、エレベーターのドアが開く。

「おお!これはこれは藤田さん、お疲れ様ですぅ。部長会はいかがでしたか?」

後輩山下がエレベーターへヒョコヒョコ乗り込んできた。

「うん、上々だったよ!なんかね…」私は満面の笑みを浮かべて本日の成果を話し始める。

桜井が何か言いかけた事なんてすっかり忘れて。


私はデスクに戻るとスマートフォンを掴んで慌てて階段の踊り場へと向う。

画面をタップすると、数回呼出し音が鳴った後につながる。

「紗英です!奏さん!」

『…ミーティング中なんだけど』声を顰めてちょっと迷惑そうだ。

「やりました!上手くいきました!それが直接言いたかっただけです!」

『そうか、よかったな』電話の向こうで得意気に笑う奏さんの顔が目に浮かぶ。

「今日は高級なビールを買って待ってます」

『了解』と素っ気ないく言うと電話は切れた。

ああ、早く会って色々話したいな。

廊下の窓から見える景色はなんだかいつもよりも輝いて見える。

私は踵を返し軽い足取りでデスクへと戻った。
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