イジワル同居人は御曹司!?
そんな私のアンニュイな想いとは余所に山下は焦った様子で事情を説明する。

「ビューティーコスメ部門の梶原女史から、プレミアムリッチコットンの店頭試供品配布キャンペーンで使用するサンプルの納品数とそれに伴う予算策定を依頼されたのですが…」

「知らんがな!!」私は思わず声を張る。

「キャンペーン内容もよくわからないのにどうやって納品数と予算を決めるのよ!うちの部署の仕事じゃない!断りな!」

「は、はい!」

私が一喝すると山下は飛び上がって自分のデスクへ戻って行った。

ミーティングに出て押しの強い梶原女史から余計なお土産をもらってきたようだ。

突っ返したところでお怒りの電話が掛かってくるだろう。きっと私宛てに。

私は大きく溜息をつく。

何だか午前中からえらく疲れた。今日は早く帰ろう。

気を取り直して私は自分のパソコンへ向かった。


◇◆◇◆◇◆

予定通り早めに仕事を切り上げたので、夕飯は自炊する事が出来た。

火災で色々と物入りなので出来る限り節約するようにしている。

本日のメニューはおでんと炊き込みご飯だ。あとビールも。

「いただきます」

食事をしようとしていると玄関のドアが開く音がした。

げ…帰ってきた。

キッチンの引き戸が軋みながら開き無愛想なメガネが姿を現した。

「お…かえりなさ…」

恐怖で言葉がしりすぼみになる。最後の方は声になっていなかった。

奏さんは無言のままチラリと私に視線を向ける。

『まだいたのか、この女』

と、いう心の声が聞こえてくるようだ。

出て行けって督促をされたらどうしよう…
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