イジワル同居人は御曹司!?
バタン、と玄関のドアが閉まった音が聞こえた。

私はコンロの火を止めて、音を立てないよう小走りで玄関の扉の前に移動する。

息を潜めて耳にドアを押し付けると、聞き耳を立てた。

「優梨奈、どうしてうちに来たんだ?」

どうやら儚げな美女は優梨奈というらしい。

悔しいけど、雰囲気にぴったりの素敵な名前。

…別に張り合っちゃいないけど。

「奏が彼女と住んでるって知らなくて。ごめんなさい」

何時もなら即座に「彼女じゃない」と否定するところなのにどうしたことか。

メガネは不気味な沈黙を決め込む。

「それ…」と奏さんは呟く。

「ああ、夕飯でも一緒にどうかと思ったんだけど、そんな感じじゃなかったね」

優梨奈は明るく振る舞うが、それがうら悲しく健気に聞こえる。

「ごめんね。もう、連絡とかしないから」

じゃあ、といった後に、コツコツと足音が聞こえる。

どうやら優梨奈は帰るらしい。

「待てよ」

…呼び止めるか、そこで。

「駅まで送る」

奏さんが言った瞬間、ドアがガチャリと開く。
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