イジワル同居人は御曹司!?
ドアに寄りかかって、聞き耳を立てていた私は、そのままベチャッと前に倒れ込んだ。

カエルの礫死体のように無様な格好だ。

「おい、何をしている」

頭上から冷たく声を掛けられれる。

「いや、あの立ち話も何だからお茶でもどうかなーって」

私は慌てて身体を起こし、苦しい言い訳をする。

「ありがとうございます。でも、帰るので大丈夫です」

優梨奈はすみませんでした、と言って頭を下げると茶色いの髪がフワリと揺れる。

「そうでしたか、残念だわ。またの機会に」

…多分ないと思うけど

私はホホっと笑って誤魔化し、逃げるようにキッチンへと退散した。

暫くすると奏さんの車が走りだす音が聞こえてくる。

きっと優梨奈を送りにいったのだろう。

今日は帰って来ないかもしれない。

トロットロに煮込まれた牛すじカレーをジッと見つめると、なんだか無償に悲しくなってきた。
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