イジワル同居人は御曹司!?
桜井を振り払って一人でタクシーに乗りこまなかったことを後悔する。

チラリと視線を向けると桜井はニッコリ笑って私の手をギュッと握った。

…やっぱり一緒に帰ってよかった。

そこで考えた唯一の回避策。

「あ、そこのマンションの前で止めていただけますか？」

見知らぬマンションを自宅と偽る。

策ってほどのもんじゃない。

「はぁい」と言ってタクシーの運転手はマンションの前で車を停めた。

「ありがとう桜井、助かった」

私は握っていた手をスルリと離すと逃げるように車から降りる。

「あ、ちょっと待ててください」

桜井は運転手に告げると、後を追って車を降りる。

「藤田、今日はごめん。俺があの店に誘ったから」

私は笑いながら首を横に振る。

「桜井のせいじゃないよ。私がドジだっただけ」

「いや、悪いのは俺だ。だから」

と言って桜井はジッと私の目を見つめる。

「今日の食事は勿論ノーカウントで。次回はちゃんと誘っていい？」

桜井は私の手をキュッと握る。

「うん、楽しみにしてる」

私はへラリとだらしなく頬を緩ませて桜井の手をそっと握り返した。

「今度は蛇のお酒なんか置いてないようなとこにする！」

思わず声をあげて笑ってしまった。

「約束」

桜井は繋いだ手に力を込めて、ニコリとキュートな笑顔を浮かべる。
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