イジワル同居人は御曹司!?
「見つかりました?」

私はカウンターに前のめりになる。

「ご友人様と思しき方が1階ロビーを出たところにございます庭園へと向かわれたそうです」

コンシェルジェは機械のような抑揚のない声で優梨奈の行き先を告げた。

「ありがとうございます!」

コンシェルジュは定規で測ったように直角90度のお辞儀をする。

私は庭園を目指して駆け出した。

階段を一気に駆け下りてロビーに出る。

フカフカした絨毯にヒールが引っかかり、靴が脱げてよろめいた。

その拍子に、白人の観光客らしき集団に突っ込む。

「oh!」と言って、思いっきり怪訝な表情をされた。

ぶつかった時に女性観光客が手に持っていた買い物袋を取り落していた。

床に我が社の一押し商品プレミアムリッチコットンが何個も転がっている。

こんなに沢山買ってくれたなんて。

思わず「サンキュー!」と口走り、拾い上げたプレミアムリッチコットンを手渡す。

靴を履き直すと再び走りだした。

豪華な調度品で飾られた広々としたロビーを突っ切っていく。

ピアノの生演奏まで聞こえて来た。

しかし、足を止めて聞き入っている余裕は、ない。
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