イジワル同居人は御曹司!?
「結婚するな、とは言ってくれないんだね」

優梨奈の声は心なしか震えている。

「俺にとめる権利はないから」

「権利って…」優梨奈は言葉を詰まらせた。

「俺は今結婚する気はない。それは優梨奈だから、という訳ではなく誰ともする気はないんだ」

「だからアメリカへ転勤になった時も、一緒に行こうって言ってくれなかったの？」

奏さんは何も答えない。それはきっと肯定を意味している。

優梨奈は目元を指先でそっと拭った。

きっと泣いているのだろう。

「優梨奈の事は好きだった。だけど、将来の約束が出来ないのに待っててくれ、なんて無責任な事も言えなかった。お前は綺麗で頭もいい。きっと直ぐにいい奴が見つかると思ったし、実際そうなった」

優梨奈は奏さんの胸にそっと手を添えて、潤んだ瞳で見上げる。

「じゃあ、どうして私に会いに来てくれたの？」

やっぱり、奏さんは優梨奈と会っていた。

予測はしていたけど事実を突きつけられると心臓を鷲掴みにされたように苦しくなる。

「変な期待をさせたら悪かった。家に帰りたくなくて、居心地のいいお前のところに逃げていたのかもしれない」

それは…、と言って優梨奈は言葉にするのを少し躊躇った後に「あの人が家にいるから？」と尋ねた。
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