イジワル同居人は御曹司!?
「それで、兄は奪還出来なかったわけ？」

海老蒸し餃子をつまみながら歩が尋ねる。

私がガックリ肩を落として一人トボトボ歩いて帰って来たのを見て歩は何かを察したらしい。

励ましてくれようとしたのか、高級中華料理彩華苑の飲茶バイキングに連れてきてくれた。

「奪還するもなにも、私の出る幕なんてなかったよ」

私は窓から見える空をボウッと見つめる。

「どうゆうこと？」歩は眉根を寄せる。

「優梨奈は久々の再会にちょっと気持ちが揺れたみたいだけど、奏さんは優梨奈を婚約者から奪って自分と結婚、なぁんて気はサラサラなかったっぽい」

嘘でしょ？！と言って歩は大きな目を更に大きく見開く。

「まったく人騒がせなメガネだよね」

小籠包をパクリと食べる。

次の瞬間「あっつ！」と声を上げてのけ反った。

「大丈夫？」歩に手渡されたお水を慌てて口に含む。

本当に今日は冴えてない。

「じゃあ、どうして兄は優梨奈に会いに行ってたのかな」

歩の疑問に私の心臓が大きく跳ねた。

「さぁ、なんでだろうね」

私が家にいるから帰るのが嫌だったみたい…なんて口に出したらきっと泣いちゃう。

三十路女が公衆の面前で泣きっ面を晒すのはいただけないので真実を口にするのは止めておいた。
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