イジワル同居人は御曹司!?
「真夜中なんですから寝たらどうですか」

私は手の甲で口元の水を拭い、ペットボトルを冷蔵庫へしまう。

「じゃ、おやすみなさい」

逃げるようにキッチンから出ていこうとすると「おい」と低い声で呼び止められた。

「なんでしょうか」私はからくり人形のようにギクシャクと振り向く。

「出ていく準備は出来たのか?」

やっぱりそうきたか…

奏さんに痛いところを尋ねられて、私は口をつぐんで視線を逸らす。

「出来たのか、と聞いている」

奏さんが一歩私に近づいてくる。

「え…いや…あの」

「言ったはずだ。週末までは出ていけ、と」

抑揚のない話し方でまた一歩私に近づいてくる。

「そんな事をいってもですね、何か行動を起こすのには先立つものが必要じゃないですか」

私はあたふたと言い訳しながら一歩後退する。

「火災保険が下りるだろう」

奏さんはまた一歩距離を縮めてくる。

「出火元は私の部屋じゃなかったので火災保険はおりません。管理会社がもとの状態には戻してはくれますが、家財道具は全て燃えてしまったので生活できません」

私は逃げるように一歩後ろに下がる。

「貯金は?」

奏でさんが近づいてきたので後ろへ下がると壁にぶつかった。

も、もう…逃げられない。
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