イジワル同居人は御曹司!?
「い、いいんですか?いいんですか?」

私はお釈迦様に涙目ですがる。

歩はニッコリと微笑んで頷くと、長い黒髪がさらりと揺れた。

「確か紗英のご両親って今マレーシアに住んでるんでしょ?実家にも戻れないじゃない」

「そうなんだよね」私はガックシ項垂れる。

両親は父親の定年退職を機にマレーシアへ海外移住してしまった。

そのため私が生まれ育った千葉の実家も人に貸してしまっている。

「本当に…暫く居候させてもらっていいの…?」

私はおずおずと歩の顔を見上げる。

「気兼ねしないで。私ももうこの家を出る予定だし」

「ふぇ?なんで?」私は間抜け面で聞き返す。

「彼と同棲するの」

「ええええー?!」

私は大声を張り上げて聞き返す。

やぁねぇ、と言って歩は仄かに頬を染める。

その表情は同性でもハッとするほど可憐だ。

「彼から一緒に住もうって言われたんだ。結婚前提で」

歩はそっと頬に手を添えた。

その左手薬指にはエレガントなダイヤのリングがはめられている。

眩しい。眩しすぎる。

彼氏もいなくて家もない、何もない絶望の淵に立たされている私はダイヤモンドの神々しい輝きが眩しすぎて直視できない。

「だから住みながら紗英にこの家を管理してもらえると助かるわ」

私は涙目でブンブンと首を縦に振った。
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