イジワル同居人は御曹司!?
「藤田さんの身元はこれで証明されました。とりあえず、今晩はこちらでお過ごしください」

奏さんは抑揚のない声で言う。

「こ、今晩は？」私は思わず聞き返した。

「今週末には荷物をまとめてこの家から出て行っていただけますか」

奏さんは眉一つ動かすことなく冷酷な宣言を私に告げた。

「そ…そんなぁ…」

私は絶望に打ちひしがられる。

「この家は私と歩の共有名義となっています。そのため仕事でアメリカへ赴任する前は私がこの家で暮らしていました」

「そ…そんなこと一言も聞いてないんですけど…」

膝の上で握りしめた拳がプルプルと震える。

お金が貯まるまでの安住の地を手に入れたと思ったのに…。

早くもデスパレートなこの状況。

「歩が何を言ったか知りませんが私がこの家に戻ってきた以上、藤田さんをこの家に置いておくことはできません」

「私は歩と賃貸契約を結んでいます！」

私は鼻息を荒くして席を立ちあがる。リビングにある引き出しをゴソゴソと探り、一枚の紙を持ってくる。

そこには手書きで『賃貸契約書』と書かれていた。

歩は「家賃なんていらない」と言い張っていたが、無償でお借りするのはさすがに気が引けた。

そこでインターネットで検察し、月々の家賃等の取決めをした書面を見よう見真似で作成しておいたのだ。

一応、お互いの印鑑も付いてある。

それがまさかこんな場面で役立つとはな。
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