イジワル同居人は御曹司!?
「今日も天気がいいことだし草むしりに精を出したまえ」

奏さんはすれ違いざま私の肩をポンと叩き、愛車へ向かう。

帰ってくんな！メガネ！

その後ろ姿に向かって叫ぶ。もちろん心の中で。

車に乗り込もうとして「ああ！」と声を上げた。

私は無視して草むしりを続行しようとすると「おい沙英！」と大声で呼びつけられる。

「何ですか？」私は迷惑そうに思いっきり眉間に皺を寄せて、奏さんの元へと向かう。

「コレは何だ？！」

奏さんは車のボディーに薄っすらとついた傷を指で指し示した。

まずい…バレた。

私はギクリとするが、ポーカーフェースを決め込む。

「車ですが何か？」

奏さんの眼鏡の奥の瞳がつり上がった。

「俺が言っているのはこの傷の事だ！」

私はワザとらしく目を凝らして、ボディの傷を凝視する。

「ああ、なんかついてますね」

すっとぼけると、奏さんは一歩踏み出して私の顔をジロリと覗き込む。

「お前が付けたんだろ？」

「なんの事やらさっぱり」

奏さんは更に顔を近づける。

事情を知らない人が見たらいちゃついている恋人同士に見えるかもしれない。

しかし、そこに甘い空気は皆無。

奏さんの茶色い瞳に囚われないように私は目を泳がせる。
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