イジワル同居人は御曹司!?
「わざわざ申し訳ありません。郵送で結構でしたのに」

「…って、言うのは、口実で羽瀬さんがログデータを取って来いってうるさくて。定時過ぎに失礼だと思ったのですが直接伺いました」

小泉青年は苦笑いを浮かべ肩を竦める。

思わず、私と歩は顔を見合わせた。

「失礼ですがもしかして、其方は?」

小泉青年は歩の顔を見て、遠慮がちに尋ねる。

「兄がいつもお世話になっております」

歩が頭を下げると、さらりと黒髪が肩に落ちる。

「い、いえ、此方こそお世話になっております」

奏さんの愚痴を言っていたのが気まずかったのか、小泉青年は焦って頭を下げる。

「我儘な人ですけど愛想をつかさないで面倒見てあげてくださいね」

歩がにっこり微笑み掛けると小泉青年は「は、はい!」と元気良く返事をして、ポッと頬を染める。

その時タイミング良くエレベーターが到着する。

「じゃあね、沙英。また明日」

ストレートの黒髪を靡かせて歩はエレベーターに乗り込んだ。

扉が閉まると小泉青年は、ホウ、とため息を付いた。

「美人ですよね」

私がボソっと呟くと、小泉青年は深く頷く。

「顔は羽瀬さんそっくりだけど優しそうですね」

「優しいですよ、すごく」

私と小泉青年は顔を合わせて苦笑いを浮かべる。

何も言わないが考えている事は一緒だろう。
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