イジワル同居人は御曹司!?
「雨降りそうっすねー」

ゆうぽんが肘をつきながら窓の外に視線を向ける。

「爆弾低気圧が来てるみたいだね」

私はパソコンから目を離さずに相づちを打つ。

「今日は金曜ですから早く帰りましょー。また電車止まったら面倒くさいですよね」

でもさ、と言って、私はゆうぽんの方へ向き直す。

「そう言ってるときに限って変な案件につかまったりするもんなのよね」

あははー、と陽気に笑っていると「藤田さん、お電話です」と若い後輩女子に声を掛けられる。

「ありがと、誰?」

「ウェルアンドカンパニーの羽瀬さんです」

…ほらね。言った通り。


嵐が近づく金曜の午後、メガネは単独で弊社に乗り込んできた。

「お久しぶりです、藤田さん」

「お元気そうで、羽瀬さん」

奏さんを出迎えに行き、不自然な挨拶を交わす。

ここのところ家では奏さんを避けて、殆ど顔を合わせることがなかったので、こうして面と向かって話すのは本当に久しぶりだ。

今日もメガネは仕立てが良いと一目でわかるスーツをバシっと着こなしている。

高そうな腕時計にチラリと目を落すその横顔は犬猿の仲の私でも様になっていると思ってしまう。

寝起きのだらしない恰好とは大違いだ。
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