イジワル同居人は御曹司!?
「あの、加藤さん、至急のお電話が入ってますぅ」

いつもより栞の声が1オクターブ程高いのは気のせいだろうか。

「すみません、少し外します」

これ幸いと加藤さんはそそくさと席を立つ。

あ、逃げたな、と思い苦々しい気持ちになる。

去り際に栞がチラリと奏さんにいわくありげな視線を向けてきた。

あ、いまロックオンした。

しかし、奏さんはログの話で頭がいっぱいのようで栞の視線に気づいていないようだ。

よかった。

…いや、私が面倒に巻き込まれなくて、って意味でね。

「おい」

加藤さん達が立ち去ると、奏さんの眼鏡の奥の瞳がギラリと光った。

「何なんだよ、このポンコツシステムは。本当に一部上場企業のサイトか？他社から10年は遅れをとっているぞ」

一気に仮面を脱ぎ棄てる。

「すみませ…」

例の如く恐怖で声がしりすぼみになる。

私が悪い訳でもないのに条件反射で謝ってしまった。

「改修といっているが、少しくらいいじった所でポンコツであることに変わりはなさそうだ。これでは売上高10倍なんて達成出来る訳がない」

奏さんは苛立ったように長い指でコツコツとテーブルを叩いた。
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