久遠 ~十年越しの恋~
ファイナルクォーター
「決勝前夜」
あれは…そうだな。
三年生に上がった六月の頃だった。
学校で応援の言葉をかけれて、余裕だぜと言い放ったものの、実際の俺は緊張して緊張して仕方なかった。
布団にくるまり、ポチポチと携帯をいじる。
ピロリンピロリン。
メールの着メロが鳴る。
『明日の試合絶対勝とうぜd=(^o^)=b
廉哉』
「廉哉…もちろんだよ。負けたらぶっ殺す…と」
俺はバスケ部に所属していた。
うちの中学のバスケ部は他のどの運動部よりもキツくて厳しいことで有名だった。
初めは失敗したと思った。
ただ単にモテたいがためにバスケ部を選ぶという不純な動機で入部したことをひたすら後悔した。
ゆるくのんびりとしたテニス部にすればよかった…と何度も何度も思った。
あーだるい、かったるい。
先輩後輩の上下関係ってのもうざったるいし、顧問の先生には絶対服従だし。
だいたい試合にはたった五人しか出れねーし。
バスケ部なんてゴミだわ。
それが俺の口癖だった。
最低の部員だと思うだろ?
俺もそう思います。
でもさ、俺は一度も部活をサボろうという考えにはならなかった。
その理由は新入部員の中で俺が一番下手だったから。
中学生のバスケ部ってさ、小学校からミニバスとかやってる奴も入ってきてやっぱそこそこ上手い奴らも入部してくるんだよ。
レイアップシュート。
いわゆる庶民のシュートってやつだな。
バスケやってる奴らは簡単なシュートだよ。
だなんていうけど素人にはこれがなかなか難しい。
入部してすぐにそれを一人ずつ打ってくことになったんだ。
で、俺は一番下手だった。
ランニング練習も一番遅くてみんなに着いてけなかった。
廉哉や他の同級生より何歩も何歩も後ろからのスタートだった。
でも俺は負けたくなかったんだよ。
見てろよって思った。
おまえらよりも何倍も何十倍も練習して絶対レギュラーになってやるって…そう決めた。
一年が過ぎて…二年生になって…新人戦の季節。
ようやく俺はレギュラーを勝ち取った。
嬉しかったよなぁあのときは。
「…明日の試合も勝たねえとな」
携帯を枕元に置いて、まぶたを閉じる。
早めに寝てしまおう。
そう思ったときだ。
ピロリンピロリン
「ん…誰だよこんな夜中に」
携帯を開く。
メールの差出人には久しく見てない名前が表示されていた。
「草葉夏菜」
「は?」
思わず凝視してしまう。
何で夏菜が?
…つーか、今さらなんだってんだよ。
あの日、俺が夏菜に八つ当たりしてしまった日以来俺は夏菜のことを避けていた。
なんだか気まずくなってしまったのだ。
夏菜に当たってしまったことが恥ずかしくて情けなくて…。
せっかく同じクラスになったっていうのに、声すらかけれなくなっていた。
深呼吸深呼吸…。
意を決してメールを開く。
『明日試合見に行くから。
勝ってね(^^)v』
「夏菜…」
なんだよあいつ。
…かわいいとこあるじゃん。
携帯を握りしめて、俺はその日眠りについた。