きみの愛なら疑わない
#0 結婚式を壊した女
チャペル内正面の壁一面ガラス張りになった向こうには青く澄んだ海が広がる。
雲一つない青空と海が一望でき、白い壁で統一されたチャペルは青と白の花が飾られ、バージンロードは水色のガラスタイルが敷かれている。
正面のガラス窓の奥に設置された噴水からは誓いのキスをした瞬間に合わせて水が吹き出し、陽の光を纏ってキラキラと輝くアーチを演出するのだと聞いている。
バージンロードのガラスの床をカツカツと靴音を響かせ花嫁とその父親が歩いてくる。その先の祭壇に待つ新郎は穏やかで優しい顔をして新婦を待っていた。
新郎の横に新婦が並ぶとまるでドラマのワンシーンのように、背景の海も澄んだ空も白い壁も参列者も、全てがこの日の2人のために存在しているようだ。
私は新婦から目を逸らさなかった。幸せそうな顔をして横に立つ新郎に微笑む彼女の秘密は私だけが知っている。そしてこの場で彼女を祝福していないのも私だけだ。
純白のドレスに包まれて嘘の愛を新郎に誓おうとしている。身も心も決して純白とは言えない彼女は心から永遠の愛など誓えないはずなのだ。本当に新郎を愛しているのかさえ今となっては疑ってしまう。
新郎に対する裏切りを、彼女は私にだけ吐き出して幸せになろうとしている。恵まれて生きてきた彼女はそんなことも許される。それでも私は彼女の生き方を認めたくはなかった。
何も知らない新郎は以前見たときよりも凛々しくて頼り甲斐のある男性に思えた。そんな新郎の魅力を彼女は全て理解しているかは分からないけれど。
誰もが羨む幸せな2人。
私だって祝福する気持ちは嘘じゃない。だけど純白の花嫁の裏切りはいずれこの結婚に悪い影響を及ぼすと知っている以上、私自身が止めるべきか今この瞬間も迷っている。
早く……来るなら来てよ……。