きみの愛なら疑わない

「お久し振りです美麗さん」

もう腹は括った。過去とけじめをつけなくては。

「どうしてここが分かったんですか? あれから引っ越したはずなのに」

私と母は美麗さんが泊まりに来ていた頃のアパートから、就職を機に目の前のマンションに引っ越してきた。この場所を美麗さんは知らないはずだった。

「美紗ちゃんが美麗の実家に荷物送ったでしょ。バッグとか服とか。その箱と伝票がそのまま残ってたの」

美麗さんと行動を共にしていたときに貰ったブランドのバッグや服を引っ越しの際に美麗さんの家に返した。それらは私が持っているべきものではないから。ほとんど未使用で、一度も開けずに袋に入ったままのものもあった。
バカ正直に荷物の伝票に新しい住所を書いてしまった。それに今苦しむことになるなんて。

「LINEしても既読にならないし、電話も繋がらない。久々に連絡したから仕方がないんだけど……」

LINEで連絡をされても把握できない。それは美麗さんをブロックしてしまったからだ。

忘れたかった。美麗さんに纏わる全てを。
あの結婚式を思い出さないように。私の目に触れないように。

「慶太に会いたくて美紗ちゃんに居場所を知らないか聞きに来たの。親も弟も誰も教えてくれなかったから。それがここにいるとは思わなかった……」

私の手の中のスマートフォンが再び鳴った。優磨くんから電話がかかってきたけれど応答することなく無視した。今はどうやってこの状況を切り抜けるかで頭がいっぱいだった。

「なんで僕に会いに来たんだよ。捨てたのはそっちだろ?」

黙って話を聞いていた浅野さんの声はとても低い。怒りを含んでいるようだ。でも怒りだけじゃない。目の前の状況に怯えている。

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