きみの愛なら疑わない

声が震えている。マンションの明かりに照らされた美麗さんの目はだんだん光を反射する。涙で潤んできたようだ。

「美麗とはよりを戻すつもりはないし、二度と会いたくないと思ってたよ」

「慶太じゃないとだめだって気づいたの」

私は目の前の二人の会話に口を出さず黙っているけれど、心の中で美麗さんを罵倒した。

もう遅い。気づくチャンスはいくらでもあった。何度も考えて行動してと美麗さんに忠告したのだ。
だけど、最終的に匠を選ばせたのは私だ。匠を唆して式場に乗り込む後押しをした結果がこの有り様なのだ。

「本当に美麗は変わらないね。あのときと何も。変わらず思慮に欠けた行動ばかりする」

「だから慶太がいないとだめなんだよ」

「僕は御免だね。君を信じて裏切られるのはもう懲り懲りだよ。それに、バンドのボーカルくんはどうしたの?」

「匠は……」

美麗さんは言いにくそうに下を向いた。

言わなくたって分かっている。匠は美麗さんを裏切ったのだ。浅野さんだって恐らく知っている。世間に報道されていることを知っていても美麗さんにわざと聞いたのだ。

「散々あの男に貢いであげたのに、今度は他の女に取られたの? 駆け落ち同然であれだけ騒いで僕の前から消えたのに」

わざと吐き出す鋭い言葉は美麗さんを突き刺す。

「捨てられたから捨てた僕のところに戻ってくるなんて本当に変わらず図太い神経だね」

浅野さんは驚くほど辛辣だ。元婚約者としての気遣いは何も感じられない。ついに美麗さんはコートの袖で涙を拭いた。

通りの向こうから光が見え、こちらに向かって近づいてくる。
一台の車が浅野さんの車から少し離れた後方に停車した。その車から降りてきたのは優磨くんだった。

< 113 / 164 >

この作品をシェア

pagetop